京都府宇治市の宇治橋通り商店街振興組合が4月より実施しているテイクアウトの取組み「崖っぷち弁当」が、複合的な展開を見せている。苦肉の策として始まったこの取組みは地域の人々に支持され、さらには新規顧客の獲得につながるなど手ごたえを感じる店主もでてきているという。商店街は利用者に感謝の気持ちを込め、先月からスタンプラリーも行っている。
世界遺産の平等院、宇治上神社のほど近くに位置する宇治橋通り商店街は、由緒正しき茶問屋や飲食店など90もの店が軒を連ね、いつもは地元客や外国人観光客でにぎわう商店街だ。しかし、新型コロナ感染症はこの商店街にも大きな影を落とした。とりわけ飲食店が受けたダメージは甚大で、売上が1割以下に激減した店もあったという。4月6日、窮地に立たされた店主7人は、対策を話し合うために集まった。そこで生み出されたのが、統一の包装・統一の価格(税込み800円)で各店の個性を生かしたオリジナル弁当を販売するテイクアウトの取組み「崖っぷち弁当」である。インパクトあるそのネーミングは、会合のメンバーの一人が発した「今が崖っぷちやな…」の言葉に由る。
何事もスピード感が大切と、「崖っぷち弁当」の開始日は、その会合の1週間後と定められた。包装パッケージも早々にできあがり、メンバーたちは手分けして取組み参加への声がけを進めた。こうして15の参加店舗が揃い、4月13日から「崖っぷち弁当」の一斉販売が始まる。「ただし“一斉”とはいっても、準備が整った店から順次開始という緩い決まりごとの中での実施となりました。緊急事態に対応するには柔軟なシステムがいい。例えばテイクアウトに慣れている店や慣れていない店など、店によって事情が異なるので、それぞれに合ったタイミングややり方で取組みに参加してもらえたらと思っていました」と、宇治橋通り商店街振興組合理事長の佐脇至さんは振り返る。それでも、“商店街としての一斉の取組み”と打ち出したことが功を奏し地元のマスコミにも大きく取り上げられ、ニュースを見て来店する客が後を絶たなかった。
4月に“弁当の一斉販売”から始まったこの取組みは、5月には “オリジナルPR動画の制作・配信”、6月上旬からは“デリバリーサービスの開始”、中旬には“スタンプラリーの開始”と、次々に新たな展開を迎えながら進んでいく。
動画は、参加メンバーの知人である歌手がレポーターになり、各参加店を訪問して店先で実際に「崖っぷち弁当」を食べ、食レポを行うというもの。1本3分程度で、取組全体の概要紹介から始まり、お弁当に入っている店自慢の料理や、厨房の様子、店主の人柄や想いがダイレクトに伝わる内容だ。12~3店舗分が作成され、SNSで配信、着実に店のファンを増やしている。
デリバリーサービスの導入は、近隣の市で複合商業施設がタクシー会社と提携してサービスを始めたというニュースを聞いたメンバーが、「自分たちの商店街でもできるのでは」と、すぐさま視察に行き実現に至った。デリバリーメニューには、「崖っぷち弁当」の他にも各店のオリジナルメニューが含まれるようになったため、取組みは店の経営をさらに助けるものに。連携先の地元のタクシー会社「ヤサカタクシー」も、観光客激減で非常に厳しい状況。連携し互いに支え合うことで、地域経済を回すことに貢献している。
そして、緊急事態宣言の解除を受け6月中旬からは、「4月の販売スタート以来、たくさんのご利用誠にありがとうございます!感謝を込めて、お礼企画をご用意しました」という言葉とともに、店内での飲食も含めて対象にしたスタンプラリーを開始。各参加店舗で利用できるクーポン券や、小物、地元の温泉施設の入浴券を特典にしている。
参加メンバーたちは、かつてないほど積極的に自分たちのアイデアを話し合い、頻繁にSNSで情報共有を行いながら、一連の取組みの実施体制を確立していった。4月13日に15店舗で始まったこの「崖っぷち弁当」の取組みには、現在20店舗が参加している。佐脇理事長は、これらの動きを通じて商店街に一体感が生まれたことが、今後の自分たちにとって大きな強みになると確信しているという。「コロナがこれからどうなるのかはわかりません。しかし、今回のこの有事の事態を、商店街の皆で乗り切ることができたことで、今後第2波、第3波が来てもきっと私たちは生き残ることができる」と力強く述べた。