千葉県市原市の五井駅から養老渓谷駅間を走り、週末になると大勢の観光客が訪れる、小湊鉄道の「房総里山トロッコ」。その途中駅の上総牛久駅で、牛久商店街の店主たちが列車の乗客に商店街の商品を販売する「出張牛久商店街」を実施し、話題を呼んでいる。
牛久商店街は、文具店、石材店、精肉店、和菓子店などが建ち並ぶ昔ながらの商店街。かつては100軒以上の店があったが、大型店やネットショッピングの台頭で来街客が減り、徐々に活気を失っていった。そんな中で、5年前、当時まちづくり活動に参加していた大学生のアイデアから生まれたのが「出張牛久商店街」だ。
「駅にはお客さんが大勢来るのに、わずか20mしか離れていない商店街にはお客さんが来ない。だったらこちらから駅に乗り込んじゃいましょう!」との提案に「それは面白い!」と、精肉店、2軒の和菓子店が賛同。他の店主たちも売り子として参加し、商店街のPRを目的に2018年から活動がスタートした。
トロッコ列車は週末やイベント時に運行し、最初の停車駅となるのが上総牛久駅だ。店主たちは揃いの法被を着て、首から番中(商品を入れる箱)を掲げ、駅のホームで列車の到着を待つ。紙袋にざっくりと入れたコロッケ、どら焼きやイチゴ大福などが隙間なく並べられ、実際に店で売られているかのようなその光景に、乗客たちからは「まるでお店で買い物をしているみたい」と好評だ。
「毎週末活動を続け、お客様からこの出張販売を楽しみにしているというお声も頂けるほどになりました。実際に商店街へ足を運んでくれる方はまだ多くありませんが、商店街活動に積極的に参加してくれる店舗が増えたり、商店街を盛り上げようと外から若い人が集まってきてくれたりと、嬉しい変化が起こっています」と、出張牛久商店街のメンバーで駅前で文具店を営む深山康彦さんは話す。
そう、実は今、この商店街では地域の若者による活性化の動きが盛んだ。例えば、駅からの人の流れをつくろうと、地域おこし協力隊が駅舎の元売店を改装してコーヒースタンド「#牛久にカフェをつくりたいんだ」をはじめたり、大学生が、店主の顔写真と店のストーリーをつづった垂れ幕を商店街の店先に飾る「牛久のれんプロジェクト」を行っている。地域住民の中には、元靴店を改装して誰もが気軽に飲食店を始められる「シェアキッチン」をオープンさせた人も。
「一足飛びに何かに発展しているわけではないですが、小さな輪が少しずつ広がって、今までにないことが生まれています。地域の人たちがこれだけ私たちの商店街のために頑張ってくれているわけですから、その気持ちに答え、出張牛久商店街をベースにさらに頑張っていきたい」と深山さんは熱く語った。