東京都八王子市の八幡上町商店街くらま会(中野智行会長)が、関東屈指の山車祭りともいわれる「八王子まつり」の「山車」をテーマに冊子を発行した。5000部が刷られ、3月16日まで買い物客に配布されている。
八幡上町くらま会は、ここ数年、八王子の歴史や文化など地域資源をテーマに、年一回のペースで冊子を製作し、買い物客に無料で配布する取組みを行っている。同商店街は10年前まで、商店街活性化のための販促イベントを毎年行っていたが、盛り上がるのはイベントの期間だけで来街者との恒常的な結びつきにつながらない、という問題を抱えていた。そんな折、江戸時代に徳川家康に仕え八王子の街づくりに取り組んだことで知られる偉人・大久保長安(※注)についての紹介を入れた商店街のチラシを作成し配布したところ地域で話題となったため、翌2015年に八王子の街中の歴史や文化、そして商店街の店舗を巡るオリジナル観光ガイドブック「KURAMA BOOK」(くらまブック)を発行。それが、大きな反響を呼んだ。
KURAMA BOOKの発行に携わった写真館「桃屋美術」の春日晃さんによると、このガイドブックがお客様とのコミュニケーションツールになり、次の取組みにもつながっていったという。「当時、多くのお客様から『お店のことや自分たちの地元のことがわかって面白かった』という言葉をいただきましたし、掲載写真から昔ばなしが弾むことも度々ありました。そうした会話を交わしたお客様の一人が昔の八王子の風景写真をたくさん保管していることがわかり、『こんな懐かしい写真を見たら地元のご高齢の方たちが喜ぶのではないか』と、次のイベントのアイデアが生まれたんです」(春日さん)
こうして2016年から2019年にかけて、商店街は年に一度、地域住民、出版社、郷土資料館などから、明治から昭和の中頃にかけての八王子の街並みや祭りの風景の写真を借りてポスターにし、店舗の壁や空き店舗のシャッター等に展示する「八王子おもひで写真館」という写真展を実施した。加えて、写真展開始の2016年からは、その写真を使って冊子も発行するようになった。
今回作成したのは、八王子まつりの「山車」をテーマにした冊子。実は、同商店街の名前の由来も、この「山車」にあるという。同商店街の地域が所有する「八幡上町の山車」の上には、江戸幕末から大正時代にかけて、鞍馬天狗と牛若丸の人形が載っていたことから、八幡上町の山車は別名「くらまの山車」と呼ばれ、地域住民に親しまれていた。そこで同商店街は自分たちも地域で愛されるようにと、発足時に「くらま」を自分たちの名前につけて、「くらま会」と称することになったのだ。今回の冊子では、そんな商店街の歴史も含めて紹介されている。
冊子は、A5サイズ、107ページのカラー刷り。読み物としてもこだわり、曳山研究家の相原悦夫さんや、宮大工の小町和義さんのインタビュー記事も掲載。山車の彫刻美や建築美、構造などについて写真付きの詳しい解説も入れた。その写真を撮影した春日さんは、「子どもの時から見慣れていた地域の山車ですが、今まで引きで全体を見ることが多くて、寄りで細部を見るとこんなにも美しい彫刻が施されているんだと改めて感じました。この冊子をご覧いただく皆さんにとっても、新たな発見があるはずです。この冊子を通して、八王子の文化や歴史をより深く知ってもらい、地元に興味、愛着を持つ人が増えてくれれば」と、製作の思いを語る。冊子は地域の小学校にも配られ、子どもたちの地域学習の資料にもなっているという。地域の文化の担い手として、くらま会はこれからも、この取組みを続けていく。
(※注)大久保長安は、武田信玄、徳川家康に重用され、徳川幕府時代に勘定奉行、老中を務めた人物。八王子城は豊臣秀吉の軍勢によって落城し、その後城下町は荒れていたが、徳川家康は、武田氏の旧領、甲府に通じる甲州街道の他、川越街道や鎌倉街道が走る八王子を江戸の西の守り口として考え、大久保長安に命じ、新たなまちづくりを行った。