静岡県熱海市の街なかで今、「旅と熱海と、暮らしと、私と。」をテーマに体験イベント『熱海おんぱく2023』が開催されている。1月7日から2月5日まで、19種類のプログラムが延べ40回予定され、“日常”の熱海の魅力を、「街」「自然」「食文化」「アート」という観点から余すことなく伝える内容になっている。主催は、熱海銀座商店街及びその周辺地域を中心に、100年後も豊かな暮らしができるまちづくりを目指して活動を行っている株式会社machimoriだ。
実は同市では2009年から2011年にかけても、地域の魅力を掘り起こし発信する街歩きを主体とした体験イベント「オンたま(温泉玉手箱)」が開催されている。当時は、熱海の経済が真冬だった時代。観光客が激減し、衰退した温泉街はシャッター街と化していた。「その頃の熱海には、地元に関心がない、地元のことを好きになれないという人が多かった。でも、それは自分たちの街のことを知らなかったから。熱海は1300年もの昔から湯治場として栄えた歴史があり、幕末・明治・昭和の時代を通して多くの要人や文人に愛された街で、様々な資源と魅力があります。それらを掘り起こして知ってもらうことで、一人でも多くの地元の人に熱海のファンになってもらいたいと考えたんです」と、「オンたま」を企画した市来広一郎さん(株式会社machimori代表取締役)は当時を振り返る。こうして地域住民を対象に、地域住民がガイドをする側・される側として参加する200以上のプログラムを実施した結果、地域住民が自分たちの街の魅力を再発見することとなり、その後、街全体で熱海を盛り上げていこうという機運が生まれた。
それから約10年が経過した今、観光客は増加し、移住者や多拠点生活者も増え、熱海は様々な人が関わる街となった。そこで今回、地域住民が改めて“今”の熱海の魅力を深掘りし、地域内外の人々との関わりをさらに強化することで、これから未来に向けて熱海の街の活力をもう一段高めよう、熱海をさらに魅力的な場所にしていこうと、「オンたま」を復活させることにしたのだ。イベントタイトルは、10年前に得たものをもとに“今”を考えることから、「温故知新」をスローガンにして「熱海温故知新博覧会」、略して『熱海おんぱく』と定めた。
『熱海おんぱく2023』は1月7日から約1か月間にわたり開催する予定で、「街を楽しむ」「自然で過ごす」「食文化に触れる」「アートで感じる」の4つのテーマのもと、19種類のプログラムが40回分用意されている。例えば、観光地でありながらも個人商店が多く並び昭和の風情が残る熱海の商店街を体験してもらうために鰹節店、豆腐店に足を運んで食材を買い、お味噌汁をつくって熱海のおかずをお供に朝ごはんを食べるという企画や、早朝のセリに参加してそこで仕入れた魚で、老舗の干物店の店主に手ほどきを受けながら干物をつくる企画、現役の美術大学の講師と街歩きをしながら、“フロッタージュ”という手法で、街にあるものの凹凸を紙に鉛筆で写しとり、それをアートとして楽しむという企画など、観光するだけではわからない熱海の日常の暮らしに紐づく魅力を、あらゆる角度から体験できる内容となっている。
熱海の街は、コロナ禍を経たことで新たな魅力が加わっているという。「例えば、旅館がスイーツのお店を始めたり、干物屋が干物のレストランを始めたり。コロナ禍で確かに観光業はダメージを受けましたが、そのピンチをチャンスに捉えようと、新たな事業をスタートさせたお店もあります。そんなチャレンジを『おんぱく』で応援することができれば。熱海に興味を持つ人たちがここに来て面白い体験をして、一つでも多くの発見、未来につながる新たな関わりを見つけてくれれば」と市来さんは熱く語った。