12月3日、新潟市の上古町商店街に「まちのちいさな複合施設SAN」がオープンした。カフェや生花店、ギャラリーやワークショップのできるスペースの他、まちの案内所としての機能も備えている。
この施設は築99年の長屋を改装したもの。飲食店として営業していたが、昨年夏にコロナ禍により閉店。上古町商店街振興組合理事長の迫一成さんは、この歴史ある長屋をなんとか活かせないかと考えていた。
そこで迫さんが声を掛けたのが、このまちで生まれ、大学進学を機に上京後、雑誌編集の経験を経て、まちづくりに携わろうと10年ぶりに新潟へ戻ってきた金澤李花子さん。
多感な高校生の頃、新しいものと古いものが共存し個性的なお店の多い古町で多くの時間を過ごしたという金澤さん。Uターンしたことで、あらためてまちへの愛着を実感し、「さらにワクワクできる古町にしたい。誰もが自由に表現できて、若い人たちが夢をもてる場所をつくりたい」という思いを詰め込んだフリーペーパー「odoriba(踊り場)」を60部作成した。それが昨年夏、市内の沼垂地区の書店をたまたま訪れた迫さんの目に留まる。大学卒業後すぐに仲間と古町の空き店舗に出店した縁で、自らも20代からまちの活性化に関わってきた迫さん。金澤さんの熱い思いを知り、「その夢を一緒に実現しよう」と実際に会ったその日に提案し、今年の3月からプロジェクトは一気に動き出した。
SAN(さん)という名前には、古町通三(さん)番町にあり、白山神社の参(さん)道でもあることの他、みんなに参(さん)加してもらいたい、という意味も込めた。長屋の改装のために実施したクラウドファンディングでは、「施設の外壁に名前を入れる」「デザイン相談1時間」「ワークショップ参加券」など、ユニークな参加型の返礼品を多数用意し、好評を得たという。
目指すのは、「これから古町に暮らしたい」「また訪れたい」「ここでお店を持ちたい」とイメージが持てるような拠点となること。
施設1階には、生花店「Candy by Kandy」、明治創業の新潟伝統菓子の浮き星専門店「café ukihoshi」、地元の腕利きのシェフが手掛ける新潟食材を軸としたキッチン「ティオ・ペペ」の他、県内外からのアーティストやゲストが出店してイベントやワークショップを行ったり、お店やカフェなどさまざまな体験のできる「文化商店 踊り場」が並ぶ。
2階には、書道や絵画、英語など、子どもも大人も楽しく学べる寺子屋のようなカルチャー施設とデザインオフィスが入り、奥庭ではオリジナルマップがもらえる案内所とレンタサイクルを用意し、初めて訪れた人にまちを楽しむための情報提供もするという。
「お店を出したい人、表現したい人に気軽に使ってもらい、ここに来ればいつも何かに出会えるという場所になれば嬉しいです。古町に常に新しい風を循環させたいですね。貸し出しもできる奥庭スペースは来春オープンです。テイクアウトしたものを飲食したり、マルシェも計画しています。これから徐々に完成していく過程も一緒に楽しんでもらえたら。」と、現在は副館長として活躍中の金澤さんは笑顔で話す。
長く愛され続けてきた古町をさらにワクワクできるまちへ…小さな複合施設「SAN」への期待は高まる。