HOME > 活性化事例 > 東京五輪が日本と商店街にもたらすこと。

活性化事例

東京五輪が日本と商店街にもたらすこと。

イベント

地域振興

その他

特集 「EGAO 2020 Spring」特別対談

インバウンド観光で盛り上がる日本。今夏の東京五輪はその勢いに拍車をかけることが期待されている。そんななか、商店街は観光や観光客をどう捉えるべきか?

Profile 川淵三郎さん(左)
1936年大阪府生まれ。’64年にサッカー日本代表として東京五輪に出場。
日本代表監督などを経て、’91年Jリーグ初代チェアマン、’02年日本サッカー協会会長に就任。
現在は日本トップリーグ連携機構会長など複数の組織の役員を務め、
グラスルーツ・スポーツの振興や競技団体のガバナンス改革に取り組んでいる。

Profile 桑島俊彦(右)
1941年東京都生まれ。株式会社全国商店街支援センター代表取締役社長。
全国商店街振興組合連合会理事・最高顧問、東京都商店街振興組合連合会理事長など要職を歴任。
世田谷区で化粧品店を営む。’09年より現職。

大義名分よりも、まずは競技を楽しもう

桑島 東京オリンピック・パラリンピックが間近に迫ってきました。’64年の前回はサッカー日本代表として出場された川淵さんですが、今回は選手村の村長という大役を果たされます。

川淵 はい。〝村長〞と呼んでください。

桑島 では村長(笑)、あらためて今回の東京オリンピックのような大規模なスポーツイベントは、日本にどのようなインパクトを与えるとお考えですか?

川淵 何かとスポーツに大義名分や意義を求める方がいますが、まずはスポーツそのものをエンジョイする、またとない機会だということ。それに尽きます。世界のトップアスリートが日本を訪れ、世界一の技を見せてくれる。それを小さな子どもからお年寄りまでが身近で味わえる。その興奮は、他では味わえない体験になるでしょう。
 一方でオリンピアンやパラリンピアン、関係者、報道陣、そして観客など各国から大勢の方々が訪れる。世界に日本を発信し知ってもらうありがたい機会にもなりますね。

桑島 我々商店街も、微力ながらお手伝いさせていただいています。東京にある2500の商店街が、4万3000基の街路灯にオリンピック・パラリンピックのフラッグを9月末まで掲げています。大会期間中までシティ・ドレッシングと称して東京全体を装飾、ウェルカムムードを盛り上げています。ただ、商店街の現場では、海外からのお客様を迎えるために何をすべきか、いろいろと悩みがあるのも事実です。

川淵 僕はね、ことさら特別なことをする必要はないと思うんです。普段と同じ〝ありのままの姿〞を見せることで充分。’02年の日韓ワールドカップでもそうでしたが、世界から見ても日本人の〝おもてなし〞の心はやはり際立っている。海外の方がそれにふれると「日本の歓迎ぶりはすばらしい」「ユニークでジェントルだ」という記事が世界中で飛び回りますからね。

桑島 商店街としても、東京五輪を機に多くの外国の方々に訪れていただき、日本のありのままの姿を伝えられる場になれば、と考えています。まさしく、商店街は日本の暮らしそのものですから。一方、外国の方々とコミュニケーションを円滑にとれるような仕組みも必要ですね。東京では、商店街と商工会議所が協力して、数カ国語の〝指差し接客シート〞をつくり、外国語ができない店主のおもてなしをサポートしているところもあります。

川淵 すばらしいですね。ヨーロッパなどにも商店街のようなマーケットはありますが、日本の商店街はまったく雰囲気が違うエキゾチックさがある。今は外国からの旅行者も日本慣れした方が増えました。有名観光地だけでなく、路地裏にある個性的な店のようなツウ好みの場所も人気です。そういう人たちにこそ日本の商店街の魅力にふれてもらいたいですね。

桑島 2度目3度目の旅行者は、特にモノ消費よりコト消費を重視する傾向がありますからね。たとえば私がいる世田谷の商店街などは「まちなか観光」を打ち出しています。街をめぐりながら食べ歩きをして、一杯飲んで、帰りに銭湯に寄る。その都度都度で、住民の方と会話を楽しんでもらう。爆買いではなくて、ありのままの日本人の生活文化を愛でてもらう観光スタイルですね。

川淵 どこにでもあるような大型店ばかりだと退屈になるけど、商店街は個性あるお店が多いことが強みですね。

桑島 おっしゃるとおりです。この30年で、全国の商店街における飲食店の割合は増えているんですが、おいしくてユニークなメニューや名物マスターやおかみがいるような面白い店も多い。ただ、初めての人は入りにくいですよね。そこで「まちバル」という取組みをしているところがあるんです。事前にチケットを購入すると、その商店街の参加店舗で、ワンプレート・ワンドリンクのオリジナルメニューが楽しめる。初めての店でも気兼ねなく楽しめて、食べ歩きできる。国内外の方々を問わず、商店街でコト消費をしてもらうきっかけにしていきたいと、多くの商店街で推進しているところです。

川淵 まちバルね。面白い。イベント的な取組みがあると、商店街にふらっと遊びに行きやすいですよね。商店街の観光のアイテムとしてコト消費はいいですね。そうそう、そんな商店街のコト消費のひとつに、ぜひ「スポーツ」を入れてほしいと思っているんですよ。

商店街をフィールドにウォーキング・サッカーを
東京都商店街振興組合連合会では、かねてより国内のビッグイベントに合わせて街路灯にフラッグを掲示し、機運を高めてきた。ラグビーワールドカップに続き、東京五輪でも多くの来街者の目を楽しませてくれそうだ

桑島 スポーツを商店街に?

川淵 はい。スポーツを通じて地域社会を元気にしていく。これはJリーグでも、バスケットボールのBリーグでも同じビジョンです。地域密着型のプロチームが各地にあることは地域の活性化につながる。ホームゲームを通してにぎわいが生まれるだけではなく「おらが町のチーム」という意識も生まれる。そもそも、それ以前にスポーツそのものには人と人をつなげ、コミュニティを育む単純な力強さがあるんです。
 僕には忘れられない光景があってね。Jリーグを立ち上げた1992年、視察に行ったロンドンで、リージェントパークという都会の中にある大きな公園に行ったのです。そこには美しい天然芝が敷かれていて、みなラグビーやサッカーなど思い思いのスポーツを楽しんでいた。ほう、と見ていたら「あなたもやりませんか」と気軽に声をかけられ、一緒にプレイをした。スポーツがあることで、国や年齢や人種を超え、人と人の距離がすぐさま縮まるんです。
 こんな環境が日本にできればいい。そして、出会いと友好が生まれ、コミュニティを育むスポーツの場に、商店街は最適なんじゃないかなと考えているんですよ。

桑島 それは面白い! 商店街は多世代が交わる場所なので、相性が良さそうです。実は私も商店街に広場が必要だと常々言っているんです。普段はイベントの場となり、災害時には避難場所となるような機動的な広場です。たとえば、そうした広場を開放して、サッカーやラグビーを楽しんでもらうようなイメージでしょうか。

川淵 そうですね。ただ、サッカーやラグビーだとどうしても広い敷地がいるし、相応の体力、筋力が必要になる。今回のオリンピックから正式種目となる3×3(3人制バスケットボール)や、フットサルならば狭いコートでもできるからちょうどいいけれど、やはり体力がいる。

桑島 特に高齢化が進む地域には少しハードルが高いかもしれない。

川淵 そこで今は「ウォーキング・サッカー」という競技を提唱しているんです。これは誰しも気軽にできるハードルの低いスポーツ。もともとはサッカーの母国イングランドで発祥したスポーツで、コートのサイズはフットサルと同じで縦38〜42m×横18〜22mと小さい。そこで8人ひとチームでサッカーをするのですが、プレイヤーは原則として「体をぶつけたらダメ」「ヘディングは禁止」、そして何より「走ったらダメ」なんです(笑)。

老若男女が楽しめるウォーキング・サッカーの様子。発祥の地・イングランドでは、各地域でさかんに行われており、日本でも高齢化社会における健康増進やコミュニティ醸成のコンテンツとして広がりが期待されている。(写真協力:一般社団法人日本ウォーキングサッカー協会

桑島 だからウォーキング・サッカーなわけですね。それはシニア層でもまた小さなお子さんでも一緒に楽しめそうですね。

川淵 その通りなんですよ。むしろサッカー経験者や若い人は思わず走ったり、ヘディングしたりして、すぐ反則になる(笑)。経験のない方やシニア層のほうが大活躍してヒーローになることが多々ある。つまり老若男女が一緒になって、笑顔でワイワイできる。それこそロンドンの公園のように、フラッと訪れて誰でも参加できるスポーツです。多様な世代が集まる商店街にはぴったりだし、魅力的なコト消費のコンテンツとなると思う。

桑島 それはすばらしいアイデアをいただいた。商店街の大半がにぎわいを創出するために、何かしらのイベント事業を手掛けています。たいてい夏祭りの催しで、盆踊りなどをする。そこにそうした全世代が気軽に参加できるスポーツがあったらとても魅力的だし、新たなつながりが生まれそうですね。特にこれまで勤め人をして退職したようなシニア男性は、あらためて地域社会に入るきっかけを掴みづらいんです。そこにウォーキング・サッカーのような気兼ねなく参加できるものがあると、商店街や地域コミュニティへの新しいエントリー装置としても期待できますね。地方の商店街にとっては空き店舗だけなく、空き地の使い方も頭を悩ませる課題のひとつ。その解決策として検討したいですね。

川淵 そう思います。最初の話に戻りますが、スポーツは何もトップアスリートだけのものじゃないんですよ。人と人をつなぎ、地域を盛り上げる仕掛けにもなる。またウォーキング・サッカーのような生涯スポーツになりうる競技は、今さかんに重要性が説かれている「健康寿命」の延伸にもつながります。

桑島 こうした、ユニバーサル・デザイン的なスポーツを商店街で提供できたらいいですね。老若男女が、インバウンドの観光客の方も含めて一緒に楽しめる理想的なコンテンツですね。

ビジョンを胸に現場に足を運ぶ

川淵 ユニバーサル・デザインといえば、今回のパラリンピックが障がいのある方に対する地域社会の理解につながるといいと考えています。パラリンピアンはその世界でのエリート。一方で、一般の車椅子スポーツなどは、床が傷つくことを危惧して体育館を使わせてもらえないことがある。パラリンピックの開催によって、こうした状況を変え、世の中の障がい者が気兼ねなくスポーツを楽しめるようにならなければ。それが、彼らが生活しやすい環境の整備にもつながるんです。

桑島 同感ですね。商店街もソフト・ハード両面からユニバーサル・デザインをとりいれ、バリアフリー化などを進めています。予算のかかることなので全国津々浦々に浸透しているわけではありませんが、我々商店街は、人々の生活を支えるインフラであり、公共的意味もある。安心、安全、環境整備、子育て支援、文化の創造などを下支えしている自負もある。

川淵 商店街もスポーツも地域社会を支え、つなぎ合わせる、大切な役割を担っているといえるのかもしれませんね。

桑島 ところで最後に、川淵さんのビジョンを確実に形にするリーダーシップの秘訣を伺いたいのですが、意識されていることはありますか?

川淵 「ビジョン&ワークハード」が私の好きな言葉なんですね。「ここに行くぞ!」という目的、ビジョンを示したうえで、それに向かってとことん努力するということ。あとは「現場主義」ということですね。僕は上の人間がただふんぞり返っているだけだったらダメだと思っているんです。今も自分でお金を払って誰にも言わずにJリーグやBリーグの試合を見に行くんですよ。「ここのイスは座り心地が悪い」とか「チケット売り場が一人だけじゃあ、行列ができて試合に遅れちゃう」などと気づいて、クラブに文句言ってやるんです(笑)。そうすることで、あるべき姿に近づけていく。現場を見ている人間にはかないませんからね。

桑島 現場に行かないとわからないことばかりですよね。私も地元の商店街はもちろん、全国の1000カ所ほどの商店街に実際に足を運んでいます。そこでのいろいろな気づきが、商店街の活性化へとつながっていくと信じています。

 今日は本当に貴重なアイデアと気づきをいただきました。東京五輪をひとつの機会として、多くの方々に商店街の日常を楽しんでもらえればと思います。ありがとうございました。

★この記事は、商店街活性化の情報誌「EGAO」の2020 Spring(春号)に掲載されています。
「EGAO」をご覧になりたい方はこちらへ。

商店街活性化の情報誌「EGAO」

一覧はこちら
最上部へ