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特集 「EGAO 2021 Spring」スペシャルインタビュー

身近な地域の魅力を改めて掘り下げ、楽しむ「マイクロツーリズム」。コロナ禍において定着したこの新しい旅のスタイルを牽引するのが各地域で宿泊施設を運営する星野リゾートだ。彼らが考える地域の魅力とは?商店街はコンテンツになり得るのか?代表の星野佳路さんに聞いた。

星野佳路さん
PROFILE : ’60年生まれ。長野県出身。慶應義塾大学卒業後、コーネル大学ホテル経営大学院修士課程修了。

’91年、星野温泉(現・星野リゾート)社長(現・代表)に就任。現在、運営拠点は、ラグジュアリーブランド「星のや」、
温泉旅館「界」、リゾートホテル「リゾナーレ」、都市観光ホテル「OMO(おも)」、ルーズに過ごすホテル「BEB(ベブ)」
の5ブランドを中心に、国内外50カ所におよぶ。

顕在化した地域内観光のニーズ

――ウィズコロナ時代の旅のスタイルとして、地元に目を向けて楽しむ「マイクロツーリズム」を星野さんは提唱しました。それから約1年半、反響はいかがでしょうか。

星野 日本全国いろいろなところで「マイクロツーリズムで助かりました」という声をよく聞きます。人々の移動が制限され、遠方や海外に出かけることが難しいなか、身近な地域にポテンシャルがあることに気づき、マイクロツーリズムという手法を活用していただいたという実感があります。’21年1月に開業した「界 霧島」も75%以上が九州内からのお客様で、そのうちの6割は鹿児島県内からお越しです。つまり、全体の40 %が地元のお客様です。地域内観光の需要は確実にあると思いますね。

――どのような着想からマイクロツーリズムを始めたのですか?

星野リゾートでは、マイクロツーリズムの打ち出しとともに各地で地域資源を活かしたコンテンツ開発を加速させている

星野 実は以前から実践していたことで、もともとはオフシーズン対策だったんです。軽井沢で生まれ育って、1991年に実家の旅館を引き継いだんですが、当時は7、8月以外すべてオフシーズンの状態。「これはまずい」と思って取り組んだのがマイクロツーリズムです。地元の方に小さな旅行を楽しんでいただくことで、定宿にしてくれるお客様を増やす。たとえば、ニューヨークから年4回来てくれる人はいないけれど、群馬の高崎からならあり得る。そうやって観光需要をつくりだし、リピーターを増やしていきました。このたびのコロナ禍で当時のことを思い出し、この厳しい状況を救ってくれるのはマイクロツーリズムしかないと思い至りました。

――なるほど。マイクロツーリズムの定義として、自宅から車で2時間圏内とされていますね。

星野 そうですね。’20年6月、最初の緊急事態宣言が解除された直後に市場調査をしたところ、旅行したいけれど迷っている人が1/3もいて、大きなマーケットがあることがわかりました。こうした人たちの不安は交通手段。家族旅行中、もし子どもが熱を出したら、飛行機にも新幹線にも乗れません。でも、自分の車で移動するマイクロツーリズムなら、すぐに家に帰ればいい。これならコロナ禍でも旅が楽しめるし、ニーズは絶対ある。そう確信しました。だからこそ、当社でも近隣からのお客様をターゲットに、地域資源の担い手たちとタッグを組んで、マイクロツーリズム用のコンテンツづくりに力を入れています。

個人店が多い街は魅力の宝庫

――まさにそんな新しい楽しみ方を提案しているのが「OMO(おも)」ブランドですね。特に「OMO5東京大塚」は、地元の商店街と非常に良好な関係を築いているようですね。

星野 OMOブランドは、単に宿泊するだけでなく、街と連携して街を楽しむ過ごし方を提案しています。その一環で、スタッフが「OMOレンジャー」というガイド役を務め、お客様をディープなまち歩きツアーへご案内しています。大塚では商店街の方々が私たちを受け入れてくださり、いまでは地域一体となって街の魅力を発信できています。

――それにしても、東京にはいろいろな街があるなかでなぜ大塚だったのですか。

星野 大塚の良いところは、自分で店をやっている人が多いこと。それが街の個性となっていて、街歩きのコンテンツになっています。実際、「OMO5東京大塚」のお客様には巣鴨など近隣からいらした方も多く「こんな面白い街だったなんて!」と発見していただいているようです。まさにマイクロツーリズムですね。

――つまり、マイクロツーリズムにおいて、個人店やその集積である商店街はコンテンツになり得る?

星野 そう思います。接客ひとつとってもチェーン店はマニュアルがありますが、個人店は自由。そういえば先日、北海道のある個人店のラーメン屋さんに電話して予約をしたら、最初はつっけんどんな印象だったんですが、でも電話を切る時に優しく「待ってるよ」って(笑)。そんなある種人間らしい会話が、心にぐっとくるんですよね。そういう温かみのある商店街は、ふだんチェーン店に囲まれて暮らす人たちにとったら発見の連続ではないでしょうか。

 そしてそれは、コロナ収束後のインバウンド観光でのコンテンツにもなり得ます。何度も日本に来ている日本ファンたちは、もう一般的な観光地は飽きていますから、個性豊かな商店街は新鮮に映ることでしょう。

――心強いメッセージです。逆に、個人店や商店街に足りない部分はなんだと考えていますか?

星野 情報発信力ですね。ポテンシャルはとても高いのに、上手に発信している店が少ない。世界に情報発信できている店となれば、ほとんどないでしょう。だから、それを私たちが担いたいと考えています。私たちのホームページでは英語や中国語、韓国語などでホテルの魅力を発信していますが、その中に周囲の店情報も加え、それぞれの魅力を伝えていく。「OMO5東京大塚」では、サイネージを活用した「デジタルご近所マップ」も好評です。そのマップを見て、「こんな人たちが、こんなお店をやっているんだ!」と世界中の人が知り、私たちのホテルに泊まりながら、その店や街を楽しんでいただいています。

――お互いがウィンウィンの関係ですね。

星野 そうです。私たちは個店や街がもっている魅力的なコンテンツを頼りにし、店の方々には私たちの情報発信力を活用してもらう。実際、その効果は現れていて、集客にもつながっているそうです。観光客が多く商店街を訪れるようになり、お店の方たちもそれに応じて新しい商品を開発しているようです。

マニュアルではない店や人の個性が商店街の強み

商店街は行くと楽しいエンタメの場へ

――やはり来街者の流れが変わると、店も刺激を受けるのでしょうね。

星野 店がアクションを起こすことで、地元の人にも観光客にもファンが増える。街もにぎわいが生まれ、それをまた発信する人やメディアが出てくる。そんな好循環が生まれると、商店街の課題である事業承継の解決にもつながると思います。温泉旅館でも跡継ぎ問題はよく聞く話なのですが、有り体にいって、「仕事のかっこよさ」と「年収」のふたつがそろえば、自然と問題は解決します。福島県の大内宿がまさにそうです。重要伝統的建造物群保存地区として選定された福島県を代表する観光地のひとつですが、数年前までは寂れていて、跡継ぎ不足が問題になっていました。でも、素晴らしい街並みを情報発信することで集客に成功し、にぎわいが生まれた結果、後継者が戻ってきたんです。「帰ってきた息子が、自分たちのアイデアで勝手なことをどんどんやってしまうんだよ」といううれしい悲鳴も一緒に聞こえてきますが、ここで大切なのは、年配の人々が若い世代の発想を柔軟に受け入れ、ある程度自由にやらせてみること。そうでないと、街はなかなか変わっていきません。

――最後の質問です。商店街の将来について、率直にご意見をいただけますか?

星野 私は、商店街はエンターテインメントの場になるべきだと思っています。ここでいうエンターテインメントというのは、〝行くと楽しい場所〞という意味です。
 よく、商業施設の進出によって客足が遠のいた、といった話を耳にします。でも、商業施設と商店街では、決定的に性質が異なります。前者は、日常のものを安く買うという〝機能〞を求めていく場所。だから全国どこでも同じ建物、同じ商品でも構いません。逆に商店街のお店は、人も商品もサービスもさまざま。その個性との出会いが「楽しい」から、人は足を運ぶのではないでしょうか。その楽しい部分を磨いてほしいと思います。

――ありがとうございました。

外からの視点と編集力で街の魅力を再発見
都電荒川線が走り、下町情緒あふれる大塚の商店街
「OMO5東京大塚」のパブリックベース 「OMOベース」。大塚の街の“今”を発信する開かれた空間だ

 JR山手線大塚駅北口から徒歩1分。7つの商店街が広がる大塚の駅前に「星野リゾートOMO5東京大塚」が誕生したのは’18年5月のこと。以来、大塚の商店街には新しい風が吹き込まれている。
 そもそも「OMO」は、星野リゾートが街と連携して〝街を楽しむ〞ことを提案する、まったく新しいスタイルの都市観光ホテルブランド。ホテル周辺のエリア一帯をひとつのリゾートとして捉え、旅行者に街を丸ごと楽しんでもらう仕掛けを展開している。その案内役となるのが、「ご近所ガイド OMOレンジャー」と呼ばれるOMOのスタッフだ。自分たちが歩いて感じた街の魅力を紹介しながら、友人のように気ままに街を案内する街歩きツアーは、大塚のディープな魅力を発見できるとあって大好評だ。

「OMOちゃんたちが歩いてくれるおかげで街がどんどん若返っていますよ!」

「OMO5東京大塚」の総支配人、渡邉萌美さん。開業の半年前にスタッフのひとりとして赴任し、大塚の街をリサーチ。実際に歩いて食べて飲んで、街の人と話した体験がOMOレンジャーの原点

と笑顔で話すのは、サンモール大塚商店街振興組合の理事長も務める「肉のハヤシ」の林さん。コロナ禍でインバウンド需要はめっきり減ったが、マイクロツーリズムの時流に乗って近隣の街からやって来る新しい客層を、OMOレンジャーが連れてくる。その結果、新商品も開発され、それを目当てにまた人が訪れるという好循環が生まれているという。

 現在、「OMO5東京大塚」の総支配人を務める渡邉萌美さんは、「大塚は個人のお店が多くワクワクする街」と笑顔で語る。

「商店街のような魅力的なコンテンツがあるからこそ、自分たちのビジネスは成り立ちます。だからこそ、普通のガイドブックには載っていない、この街ならではの情報をより魅力的に届けることに注力しています」 
 
 根源にあるのは、OMOレンジャーと商店街の店主たちが相思相愛であるということ。そうしてOMOが街に新しい光を当て、商店街は自らの魅力を再発見しモチベーションを高める。いまや、ホテルと商店街の間にはお互いをリスペクトしたパートナーシップの関係性が築かれ、ホテル内に置かれる商品が開発されるなど、両者の魅力をさらに高めるアイデアが続々と生まれている

★この記事は、商店街活性化の情報誌「EGAO」の2021 Spring(春号)に掲載されています。
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商店街活性化の情報誌「EGAO」

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