商店街名 | 川越まちゼミの会/埼玉県川越市 |
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店主の知恵や技術を対面講座で伝え、専門店の魅力を訴求する「まちゼミ」。全国の商店街で人気のこの企画も、コロナ禍により開催が難しくなった。そんななか、この8月(2020年8月)、デジタルコミュニケーションツールを使った「WEBゼミ」が埼玉県川越市内で開催された。初の試みで見えてきたWEBゼミの強みや課題とは。
WEBゼミ、「親子で作ろう!イギリス菓子トライフル 」 の様子。 WEBゼミのカテゴリーは「きれい」「体験」「健康」
「知る・学ぶ」の4つ。なかでも「ダンス体験」など、特段の準備がなく複数人でできるものや、「料理体験」など親子で
できるものは人気が高かった。一方で、用具や品物の準備が必要な講座はややハードルが高かったようだ。
’14 年から、「川越まちゼミの会」と川越商工会議所が主催している「川越まちゼミ」。店側にとっては店を知ってもらうきっかけになり、受講者にとっては新しい知識や店の魅力に触れられることから、過去12回を継続的に開催するほどの人気企画に成長した。直近のまちゼミも100を越える講座が開かれ盛況のうちに終了。続いての開催を視野に入れていた時に、新型コロナウイルス感染症の拡大と、それによる全国規模の〝自粛〞が起きた。
川越市内で「文具のキムラヤ」を経営し、「川越まちゼミの会」の代表を務める木村和之さんは、「営業を自粛する店も多く、正直今年はまちゼミは無理かなと思っていました。そんなときに、2人の女性店主から『それなら今年は三密にならないオンラインで開催しましょうよ』と提案されたんです」
WEBゼミのアイデアが出たのは、5月末。そこから検討、準備を経て開催したのは8月1日。わずか2ヶ月間の期間で、どのような課題をクリアしていったのだろうか?
「一番ネックになったのは、やはりデジタルツールの導入です。これまでの主なまちゼミ受講者は50~70代の女性たち。どちらかというとデジタルに弱い層だと考えられます。実は、同じことが店主側にも言えて、私自身も、このWEBゼミで使ったオンライン会議ツールの『Zoom』を知ったのは、今回がはじめてだったんですよ」と話す木村さんは、まずは自分自身でZoomを学び、それを使った主催者会議を開いて運営の準備を進めていった。オンラインならではのルールや注意事項を定めた、WEBゼミ専用のマニュアルもつくり、参加店向け事前講習も行った。その講習は公式の3回に加え、補習も10回ほど実施。その甲斐あって、参加店はものの見事にZoomを使いこなせるようになっていった。講座の時だけでなく、反省会や情報共有のための打ち合わせ時にもZoomは積極的に活用され、それが参加店の当たり前の日常になっていった。
一方で「操作に自信がない」と今回参加を見送った店主たちもいた。また、常連の受講者のなかにも、「スマホは持っているけどパソコンは苦手」と受講を断念したケースもあった。
PR面でも課題はある。コロナ禍によって通常行っている近隣の小学校でのチラシ配布が叶わず、告知がWEBのみになったことで集客に苦労した参加店も。逆に、これまでとは異なるタイプの受講者が集まったという側面もあったものの、既存のまちゼミファンをどうWEBゼミに誘導するかは、「今後の課題」(木村さん)との認識だ。
かくして30の参加店により、受講者の対象もジャンルも異なる36のオンライン講座が用意された、第13回「川越まちゼミ」。その開催の様子は、実際にどうだったのであろうか。
「講座によっては、『画面共有がうまくいかない』『ネット環境が不安定で講師がZoomから消えてしまう』など多少のハプニングはあったようですが、みんな初めての体験です。トライアンドエラーだと前向きに割り切りました」
起きた問題をまめに情報交換することで、店主たちはWEBゼミにフィットする手法を積み上げていった。何より大きかったのは、オンラインは移動の必要なく時間がより自由に使えるということ。
「WEBゼミは受講者・主催者両者にとって圧倒的に楽でした。ゼミ直前まで家で他のことをしていても大丈夫なわけですから」
木村さんの言葉を証するように、WEBゼミ後に取ったアンケート結果は、これまでは時間や場所に制約されて参加が難しかった層が受講したことを示している。特に、20~30代の男性会社員・自営業の参加が増えており、新たな層の獲得という点では嬉しい成果だ。また、いつもは抽選になるほどの人気講座でも、オンラインなら多少は受講者枠が増やせる。
総じて、アンケートでの満足度は高く、デジタルのリテラシーがある人にとっては、「WEBゼミ」という手法は、すんなりと受け入れられたようだ。
WEBゼミで、今後検討しなければならないのは、「アフターフォロー」であろう。普段のまちゼミでは、実際に足を運ぶことで街や店の雰囲気を感じられるため、受講者がその後店の顧客になるというケースも多い。しかし、WEBゼミでは店との接点がその日限りの〝点〞で終わってしまいがちだ。今回塗り絵をテーマにした講座を開いた木村さんは、WEBゼミを実際の来店につなげるため、講座で描いた作品を店頭に持ってくると粗品を進呈するサービスを実施した。こうしたアフターフォローのあり方は、まだまだ工夫の余地がありそうだ。
ウィズ・コロナのこれからの時代、「川越まちゼミ」は今後どうなるのか。木村さんは、
「URLをクリックするだけで参加できる利便性は、WEBゼミならではの得難いメリットです。オンライン式か対面式かの二者択一でなく、それぞれの良さを融合させていきたい」と、ハイブリッドな新しいまちゼミのかたちを模索している。たとえば、オンライン向きの講座を上手に活かすこと。人前でダンスするのは恥ずかしくても、家でなら誰の目も気にせず踊れるし、プログラミング講座などは、画面共有すれば大きな教室で受講するより効率的なケースもある。こうした講座は、今後、オンラインと対面をうまく併用しながらの開催も可能だ。
一方で、物販系の講座はどうしてもアフターフォローの点で弱い。たとえばある製品を使って講座を行っても、それを購入するのは別の店舗になってしまう可能性もある。そこで、木村さんはWEBゼミとオンラインショップとつなげる構想を描く。
「まちゼミは、お客様が気軽に街や店に入ってこられる〝入口〞としての機能があります。将来的にはオンラインにも川越の街・店があって、そこに全国からお客様が集まるようになっていけば面白い」
近年、デジタルテクノロジーを活用して旧来の仕組みやサービスを改善するデジタルトランスフォーメーション=DXが謳われている。WEBゼミは、商店街のDX化の第一歩になりうる取組みだ。実際、東京都北区や大阪府大東市など複数の場所でWEBゼミは行われており、木村さんも他地域に今回の学びを積極的にレクチャーしている。全国の商店街の有志でブラッシュアップが図られている。
★この記事は、商店街活性化の情報誌「EGAO」の2020 Autumn(秋号)に掲載されています。
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