商店街名 | 石橋商店会/大阪府池田市 |
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大阪府池田市の石橋商店会は、15年にもわたり近隣の大阪大学の学生と交流を続け、数多くのイベントを共催してきた。コロナ禍で大学の授業のオンライン化が進み、街を歩く学生の姿が激減する今も、商店街と学生は地域の声を聞きながら、次々に企画を実現している。学生の活躍とそれを見守る商店街のあたたかいストーリーを紹介する。
3月半ば、大阪府池田市の石橋商店会にて小さな卒業式が行われた。店主や地域の子どもたちによって卒業を祝福されたのは、大阪大学の学生たち。「石橋×阪大」のメンバーである。
「石橋×阪大」は、商店街に拠点をつくり、商店街と地域、大学をつなぐ活動を行っている大阪大学のサークル。店主たちから「イシハン」の通称で親しまれている存在だ。
「『イシハン』の卒業式は、毎年商店街で行われている恒例行事なんです。こういう状況で阪大での卒業式がなくなってしまった今年は、卒業生たちが少しでも晴れやかな気持ちで新しい人生のスタートを切れるように、ぼくたち商店街がいつにも増してしっかり祝わなければ、と思いました」
そう話すのは、石橋商店会の元会長で、ベーカリー「タローパン」を営む堤洋一さん。「石橋×阪大」の立ち上げにも関わり、15年もの間、その活動を見守ってきた人物だ。
式の当日、商店街のアーケードには「卒業おめでとうございます!」と書かれた横断幕やのぼりが掲げられ、各店舗には店主からの心のこもった祝辞が並んだ。その商店街のあたたかい想いに、卒業生たちは満面の笑顔を見せる。なかには、ホロリと涙する学生も。
実はこの卒業式の始まる直前まで、学生たちは、コロナで学校が休みになり遊ぶ場所もなくなった地域の子どもたちを対象に、商店街で「春のきっかけ作り教室」を開催していた。この〝学び〞のイベントは、換気、消毒を徹底したうえで、1日1時間の講座4コマが用意され、1コマにつき4~5人の子どもたちを受け入れて実施されたもの。講座は、「スライムを科学する」「食品サンプルをつくる」など、長い自宅での時間を有意義に過ごしてもらえればと、子どもたちだけでも実践できる内容にしたという。
「石橋×阪大」は商店街とともに、8月にも子どものイベントを開催した。夏祭りをはじめとする地域の催しがことごとく中止となるなか、地元PTAから「子どもたちのために一緒に何かやらないか」と話を持ちかけられたのだ。〝コロナに負けるな〞という強い気持ちを込め、イベントを「石橋ねばぎばっ祭り」と銘打ち、PTAと店主たち、学生たちは一丸となって準備を進めた。祭り当日は、早朝から商店街隣の公園にテントを張り、ゲームやワークショップのブース、フード屋台を設営。ブースの間隔を十分にとる、予約制にして参加人数を制限する、マスク着用と消毒を徹底するなど、予防対策に十分注意を払いながら、子どもたちに楽しい夏の思い出をプレゼントした。
このような商店街と学生の親密な関係は、’05年頃に始まった。
「ここは都会でもないし、観光名所があるわけでもない。こんな何もない商店街で、いったいどうやってにぎわいづくりができるのか、と考えた時に、『そうや、近くに阪大がある。なにかできるかも』とひらめいたんです。すると運よく阪大の先生から、商店街に学生たちの居場所をつくりたい、という話をいただいて。そこから一緒にイベントをやるようになりました」
と、堤さんは、当時を懐かしく振り返る。
商店街は、空き店舗を改装したコミュニティスペースを学生たちに開放。学生たちは、それを「クルル石橋」と名付け、まず、〝近隣の中高生が学校帰りに気軽に立ち寄れて阪大生が勉強を教えられる場〞として活用しはじめた。以来、学生たちは、ここを拠点に、地域や子どもたちに根ざした活動を行ってきた。
例えば、子どもたちが商店街で起業を疑似体験してお金について学ぶイベントや、学生と一緒に泊りがけで商店街の生活を体験するイベント、大阪大学の20以上ものサークルが40~50のブースを出店しライブパフォーマンスもある、まるで大学の文化祭のようなイベントなど、数々のユニークなアイデアが商店街を舞台に実現している。
今春卒業した、「石橋×阪大」前代表の浅田圭佑さんは、「商店街は、ぼくたちにとってやりたいことを実現する場所」と断言する。
「買い物をする場としてはもちろんですが、商店街は、地域をつなぐ場でもあり、それに、外からやってきた人が何かに取り組むフィールドとしても大きな可能性があると感じます」
実際、商店街は、ビジネスを専攻する学生たちのテストマーケティングの場としても活用されているという。
「実は当初、商店街のなかには、学生との活動について半信半疑の店主の方もいたんです。学生なんて、ただ飲んで騒ぐだけでしょ、と。でも、『イシハン』が真剣に取り組むのを見て、今では商店街が何かをやる時には『イシハンと一緒に!』というのが当たり前になりました。そんな彼らの存在を、商店街の活性化にどうやってつなげていくのかが、これからの課題ですね」(堤さん)
学生と商店街は互いにいい影響を与えあっている。「彼らの新しい知識やアイデアが商店街活動の刺激になっています。それにぼくらの苦手なインターネットにも詳しく、イベント情報などもSNSでどんどん発信してくれて。本当に頼りにしています」と堤さん。
「石橋×阪大」のメンバーは、商店街の会議にも出席し、イベント企画や発信などについて対等な立場で議論する。いまや、商店街の一員という位置づけだ。こうした関係性がありがたい、と言うのは浅田さん。
「大学生が30以上も年齢が離れた人と腹を割って話す機会は、普通はありません。商売人である皆さんの意見はとてもリアルで、大学では学び得ない貴重な経験です」
また、一人暮らしの学生にとっては、いつでも会って話せる商店街の店主たちが心の支えにもなっているという。特に今年は、コロナ禍で自宅に引きこもることも多く、人と話す機会が減ってストレスを抱える状況に陥りやすい。しかし、こんな時でも商店街へ買い物に行けば、店主たちとの何気ないやりとりに癒され、前向きになれるのだ。
最後に、堤さんに商店街にとって「石橋×阪大」とはどんな存在かを聞いてみると、「うーん、若い友だちかな」と、屈託なく笑う。その互いを思い合う絆が、商店店の明日への活力になっている。
★この記事は、商店街活性化の情報誌「EGAO」の2020 Autumn (秋号)に掲載されています。
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