商店街名 | 宇治橋通商店街振興組合/京都府宇治市 |
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「崖っぷち弁当」――一度聞けば忘れられない自虐的なネーミングで瞬く間に話題となり、コロナ禍における自粛期間を切り抜けた、宇治橋通り商店街。企画のブランド化、SNSでの拡散、さらにはタクシー会社との連携サービス、スタンプラリーなど、店舗同士や地元企業、住民とのつながりで、取組みを次々に展開させていった。
店舗ごとに形態は異なるが、一律税込800円という分かりやすさ。日替わりで各店の味を試したくなる
(右下は器3つで1つのお弁当)
京都府宇治市は、世界遺産の平等院をはじめ由緒ある寺社仏閣や老舗茶舗が点在する、言わずと知れた観光名所。特に平等院から半径1・5㎞圏内は通称〝中宇治〞と呼ばれ、そこに約90店が軒を連ねる宇治橋通り商店街は、国内外から観光客が訪れる、にぎやかな場所である。
だが今年の春は、宇治川が桜色に染まる頃にもかかわらず、客足は激減。前年度の1割以下になってしまった。
「あれだけにぎわっていた商店街から、人の姿が消えました」
そう話すのは、同商店街で70年続く、有限会社サワキの三代目・佐脇至さん。宇治橋通商店街振興組合理事長を務めて今年で8年目になる人物だ。佐脇さんは理事長就任の直後から、回覧板をつくって商店街の情報を共有したり、各店舗への声がけをまめにしたりしながら、地道に店舗同士のつながりを育み、意見を言い合える環境を整えてきた。そんななかで、突如襲ってきたコロナ危機。どうにかしないといけない、とメンバーで知恵を出し合いたどり着いたのが、テイクアウト弁当のブランドづくりだった。各店舗のお弁当を、パッケージと価格を統一してブランド化すれば、認知されやすくなると考えたのだ。さて、大事なのはネーミングである。
「会議中、誰かが『崖っぷちやな……』と嘆いたんです。それや! とみんなが飛びついて、そのままブランド名に(笑)」
かくして、悲惨な状況を逆手にとり、むしろその潔さが清々しく感じる「崖っぷち弁当」が誕生。発案の翌々日には商店街メンバーによるオリジナルのブランドロゴが完成し、参加店を募り販売に至るまで、なんと1週間という驚きのスピードだった。
組合加盟店のうち飲食店23店舗に声をかけ、この企画は16店からスタートした。並行してあらゆるSNSを活用し、情報発信を行った。5月には〝食レポ番組〞風のオリジナルPR動画も制作・配信した。
こうした発信や、何よりインパクトあるネーミングとコンセプトが話題となったことで地元新聞やNHKのニュースに取り上げられ、「崖っぷち弁当」の名前は全国へと広まった。
来街者から「崖っぷち弁当」の言葉が出るほど認知されるようになった6月上旬、商店街は次の一手を打つ。地元タクシー会社・ヤサカ交通とタッグを組み、崖っぷち弁当以外のメニューにも対応したデリバリーサービスを開始したのだ。商店街から1・5㎞圏内であれば、3000円以上の注文で配送料は無料(3000円未満は500円/1回)。府のコロナ対策の補助金制度を利用して、一括受注の窓口担当をパートで雇用した。
「このサービスは、一度の電話で別々の店のメニューを注文できるのがいい。例えば5人家族なら5軒の味を楽しめます。外出しにくいお年寄りにもお届けできますしね。地元に住む方や企業の方が応援も兼ねてご利用くださって、一度に1万円以上のご注文をいただくことも。1日10万円以上の売上の日もあったんですよ」
さらに嬉しかったのは、〝今まで商店街を訪れたことがない〞という人や〝気になるお店はあるけれど、入りづらかった〞という人の利用にもつながったこと。
「ここ数年、商店街の集客はインバウンドに頼る傾向もあったのですが、この取組みを機に私たちは〝地元の人のための商店街〞なんだということを、改めて認識しました。原点回帰のきっかけとなった、大きなターニングポイントですね」
商店街のいくつもの店の味を試す利用者が増えたところで、次に実施したのがスタンプラリーだ。「崖っぷち弁当」1回の利用でスタンプを1個押し、貯まったスタンプの数によって各店舗で使えるクーポンなどの特典を設けることにした。同じ頃、陶房が集まる宇治市の「陶器の里 炭山」を盛り上げたいという相談を受けていた佐脇さんは、商店街の枠を超え、地域全体の活性化の願いを込めて「陶器の里 炭山」で作られる食卓小物も特典に加えた。
「スタンプラリーも予想を上回る反響でした。6月中旬から7月末までの短い期間にもかかわらず、25個すべてのスタンプを集められたお客さまも少なくありませんでした。商店街の皆さん、タクシー会社さんはじめ、多くの方々にご協力いただいたからこそ実現したこの企画。本当にありがたいですね。通常営業に戻った今、『崖っぷち弁当』を継続しているのは3店舗のみですが、今後もコロナの感染状況に応じて、いつでも復活させるつもりです」
この企画を進める中で、佐脇さんは参加対象である飲食店だけでなく、飲食店以外の店舗へのアプローチも大切にした。
「商店街はさまざまな業態の店で成り立っています。まずは一番打撃を受けた飲食店でできることを、と企画提案しましたが、同時に物販などの店へは『崖っぷち弁当』がきっと集客エンジンになる、と書面を通して丁寧にお伝えしました。飲食店だけを助ける企画ではなく、商店街全体を考えているという想いをしっかりお伝えしたかったんです」
そしてもうひとつ佐脇さんが大切にしたのは、参加店間で必ず情報共有を行うということ。参加店のLINEグループをつくって企画の進捗状況やお願いしたい事柄などの情報発信を小まめに行った。
「企画が無事スタートしてからは、誰かが『ロゴ入り包装紙の在庫がなくなった!』といえば『うちは余裕があるから今持って行くわ』と、助け合いの伝達ツールになっていました。LINEの便利さは知っていましたが、実際にグループで使ってみると、そのメリットに改めて気づかされました」
また、LINEであれば対面よりも意見交換が気軽にでき、自発的にアイデアを出す人が増えたという効果も。
〝崖っぷち〞から這い上がり、さまざまな学びを得た宇治橋通り商店街。団結力を高め、足元を見直し、地域との連携を深めた彼らの足跡には、大きなヒントが詰まっている。
「毎日買いに来てくださるお客様もあり、商店街みんなに宣伝効果があると感じています」(中村さん)、「お弁当企画を機に新規のお客様が増え、お店の認知度が上がりました」(前田さん)、「地元の方がたくさん来て下さったおかげで、自粛期間が明けた後もスムーズに通常営業に戻れました」 (竹田さん)
商店街ニュース コロナで“崖っぷち”の商店街、“お弁当”から広がるさまざまなアイデア
★この記事は、商店街活性化の情報誌「EGAO」の2020 Autumn(秋号)に掲載されています。
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