商店街名 | 横川商店街振興組合・横川商店街連合会/広島県広島市 |
---|
レトロな雰囲気と多種多様なイベントで人を集める広島県の横川商店街。近年では「横川カンパイ!王国」なる仮想の国を立ち上げるなど、ユニークな仕掛けが次から次へと出てくる。その原動力は、商店街の「自主自立の気風」と「人とのつながり」にあった。
近隣の小学生から提案され開催した「横川クリスマス」の模様。アートの街らしくライブペインティングも
個性的な飲食店、映画館、書店などが軒を連ねる横川商店街。そぞろ歩きをしていると目につくのが、「WELCOME横川カンパイ!王国」と描かれた派手なポスターだ。
「横川では、いろいろなイベントや変な企画をやっているんです(笑)。それをバラバラのままでなく、ひとつのまとまりにした方が街の色がよく見えるでしょう。そこで、商店街を見どころの多いひとつの独立国家に見立ててみたんです」
そう話すのは、長年にわたり商店街活動に取り組んできた横川商店街振興組合理事長の村上正さん。この〝建国〞からもわかるように、同商店街は話題性あるコンテンツを数多く仕掛けてきた。その姿勢の根本にあるのは、地域の歴史が育んできた〝自主自立〞の精神だという。
「もともとこの地域は、広島城の城下町入口の外側でした。だから、官の管理のない〝民の寄り合いの町〞として、自由で自立した気風が土地に根付いたんです。今でも、街のことは自分たちでやるのが当然だとみんな思っていますよ」
実際に、横川のまちづくりは商店街をはじめ民間主導で進み、それを行政がサポートする枠組みで行われてきた。そのまちづくりの方向性を決めるのが、商店街関係者や地域住民が一緒になって横川の未来を考える任意団体NPO法人「広島横川スポーツ・カルチャークラブ」だ。同会は’11年、「バス」「サッカー」「アート」を軸に街の資源の魅力を強化する方針を決める。以来、バスは日本初の国産乗り合いバス「かよこバス」発祥の地としてのPR、サッカーは地域ぐるみで支える女子サッカーチーム「アンジュヴィオレ広島」の誕生と、それぞれに実を結ばせていったが、その中でも最も横川商店街〝らしい〞取組みは「アート」だといえよう。
ある日、かよこバスの活動を通してつながりが生まれた広島市立大学芸術学部の卒業生が、重さ500キロもの銅版画プレス機が入る創作の場を求めて、商店街を頼ってきた。幸い、振興組合が所有するビルに機材が入ったことから、’11年、シェアアトリエ「横川創荘」が誕生する。これをきっかけに、商店街は、若きアーティストたちが滞在し活動する場となった。
そんな彼らを見た村上さんが「街でアートイベントをやってみないか」と呼びかけ、始めたのが街全体を劇場に見立て、商店や施設で展覧会やワークショップなどを実施する「横川商店街劇場」だ。ユニークなのは、商店街の役割。単に会場を提供するだけでなく、アーティストの指導のもと、なんと店主自らが作品をつくり展示するのだ。アーティストと店主たちが和気あいあいと開催する雰囲気が来街者にも伝わるのか、これは老若男女が楽しめる人気イベントに成長し、すでに7回開催されている。他のイベントでもライブペインティングが行われるなど、アートは街に当たり前の存在になっている。
“アーティストを惹きつける”イメージは、街のシンボル「横川シネマ」の影響も大きい。50年以上の歴史を持つ“ レアな映画の愉しみを発掘する雑食系ミニシアター ”は、映画人やミュージシャンの広島における表現の場になり、業界人の人気スポットになっている。実は、横川シネマが入るビルも振興組合の所有。’14年には、その運営は商店街に移り、コミュニティホールとしての活用もできるようリニューアルされた。その横川シネマで’15年に催されたアニメーションフェスティバルが、商店街にまたひとつ新たな魅力もたらすこととなる。主催者が、「フェスの一環として、ゾンビとなって街に繰り出したい」と相談してきたのだ。「それは楽しそう!」と引き受けた商店街。そこから始まったのが、今や秋恒例の目玉イベント「横川ゾンビナイト」だ。
他にも一年を通して大小のイベントが行われにぎわいを集める横川商店街。こうした人を惹き付けるコンテンツが生まれる秘訣はなんだろうか。
「私たち自身から出てくるアイデアはたかが知れています。でも、イベントを行うことで出会えた、さまざまな人たちの視点や意見が、次の新しい企画のヒントになっています。これからもネットワークを広げ、たくさんの人とつながり、その関係を活かせる柔軟な組織でいることが大事だと考えています」
そう話すのは、若手キーマンの横川商店街連合会会長・星野哲郎さんだ。村上さんが続ける。
「自分たちが面白がれないと、取組みは成功しない。なにごとも面白半分で、まずやってみることが大切だ」
自由な街の風土に惹かれ、個性のある人が集まる。そして彼らが街とタッグを組んでユニークなコンテンツを発信し、それが街の新たな資源へと成長する。こうして来街者が増え、街の価値は上がっていく。
「次は、個性的な店主にフォーカスした商店街マップ。ゲストハウスとのコラボ企画もやりたいですね」(星野さん)
どうやら、しばらく横川商店街の魅力の種は増え続けそうだ。
★この記事は、商店街活性化の情報誌「EGAO」の2020 Springに掲載されています。
「EGAO」をご覧になりたい方はこちらへ。