事業名 | トライアル実行支援事業 |
---|---|
商店街名 | 新相生商店街振興組合/北海道富良野市 |
「よいしょー!」餅つきに合わせた威勢のよい掛け声に、場が一気に盛り上がる。杵を持つのはオーストラリアからのスキー客。北海道富良野市の新相生商店街で催された国際交流会での一幕だ。地域住民と外国人観光客がともに楽しめる仕掛けをつくり、商店街は活性化を目指す。
富良野といえば、ラベンダー畑の絶景やテレビドラマ「北の国から」のロケ地、パウダースノーのスキー場などで有名な、言わずと知れた観光地。しかし、その観光客の大半はリゾート近くのホテルやペンションに宿泊するため、街への回遊につながることはほとんどなかった。特に、街なかのイベントが少ない冬のシーズンには、商店街の人影はほぼ皆無の状態に。
だが昨今、そんな人の流れに変化が起きている。富良野の雪に魅せられた、海外からの長期滞在型スキー客が増え、比較的コストのかからない街なかの宿泊施設を利用するようになったのだ。冬の夕方以降に街を歩く外国人の姿も増えているという。
こうした外国人観光客に商店街を知ってもらいたい、と動き出したのが、富良野駅前に延びる新相生商店街振興組合である。富良野は、北海道の中心に位置することから「へそのまち」をうたっており、新相生商店街は、毎夏7万人を集める「北海へそ祭り」が開催される商店街だ。
’17年、この商店街はまず、国の補助金を活用して、商店街内にある街のシンボル「北眞神社分祀(へそ神社)」の整備に着手する。同時に、全国商店街支援センターの研修(トータルプラン作成支援事業)を活用し、ソフト面でも対策を練り始めた。
研修での話し合いのもと、「自分たちはやっぱり〝へそ〞の商店街なんだ、と強く認識した」と、同組合専務理事・吉田幸生さんは語る。
そこで、「へそ」と、そこから連想される「絆」「つながり」をテーマに、商店街と富良野の魅力をアピールし、回遊を促す取組みを行うことが決まった。
’18年には商店街内に、ホステルと観光案内所の機能が付いた拠点「コンシェルジュフラノ」がオープン。同じ頃、若手の起業家がカフェやコワーキングスペースを開業し、組合のメンバーにも加わった。商店街に集客スポットが増えたことで、地元客も徐々に増加傾向に。そんな状況も踏まえ、取組みのターゲットの再確認が行われた。
「地元客か外国人観光客か、どちらをターゲットにするのか、と議論になりました。ターゲットを絞ったほうが良いというアドバイスもあったのですが、僕たちが出した答えは、『あえて選ばない』。商売人にとっては、自分の前に現れる人は皆お客さんですから」(吉田さん)
それから商店街は、外国人にも日本人にも楽しんでもらえるよう、さまざまな仕掛けづくりを行う。
へそ神社のおみくじと連動させ個店へと導く仕組みづくり、「へそ=絆」をテーマにしたコラボメニューの開発、富良野を体感できる国際交流イベントの企画実施などだ。地元の高校生も取組みに参加するようになり、へそ神社ののぼりのデザイン提案や、イベントの企画実施の手伝いもした。
「商店街と地元の人たちが一体となり、とても良い雰囲気で取組みが進められました」と理事長の大道久さんは微笑む。
’20年1月には、トライアル実行支援事業を活用し、おもてなしで人と人をつなぐ2週間にわたるイベント「FURANO FEEL THE WIND」を開催した。通りに各店舗の特徴を表した個性的なゆきだるまを並べて来街者の目を楽しませたり、へそ踊りの鑑賞や餅つき体験など、富良野と日本の文化を活かして外国人観光客と地域住民の交流を図る催しを実施した。その手づくり感あふれるおもてなしに、外国人観光客は大喜び。
「単に観光地化するのではなく、こうした富良野らしい文化を残してほしい。これからも富良野は富良野のままでいてほしい」と、熱いエールも送られる。
地元らしさを大切にした素朴なおもてなしこそ、外から来た者の心を打つ。そして地元が交流の場になれば、住民の楽しみも増える。キャッシュレス対応のような昨今流行りの対策ではないものの、この取組みは、今求められるインバウンドのひとつの提言になるだろう。
★この記事は、商店街活性化の情報誌「EGAO」の2020 Spring(春号)に掲載されています。
「EGAO」をご覧になりたい方はこちらへ。