商店街名 | ゆりの木通り商店街(静岡県浜松市) |
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築50年を超えたビルが並ぶゆりの木通りは、近年クリエイティブスポットとして注目され、若き出店希望者が後を絶たない。人と人とがつながり、新たなアイデアや企画が生まれ、商店街はさらに魅力を増してゆく。その進化の様子に迫る。
イベント開催のほか、普段から店主や地域住民たちが自由に打合わせスペースとして使っている「黒板とキッチン」
ゆりの木通りの東の玄関口にある立体駐車場「万年橋パークビル」。その1階に、ユニークな空間がある。「セミナールーム 黒板とキッチン」はその名のとおり、大きな黒板とキッチンが特徴だ。’11年にビルの空き店舗を活用してつくられた交流スペースは、’14年に改装されて現在の斬新なデザインとなり、さらに魅力を増した。
「黒板に記される文字や絵、キッチンで作り出される料理が人によってさまざまなように、私たちの周りには多種多様な知恵や技術、感性があります。『黒板とキッチン』はそうしたものが重なっていく場所として開かれているのです」と、この空間をデザインした鈴木一郎太さんは語る。
事実、ここには多くの人が集う。商店街の店主だけでなく、学生やクリエイターなどさまざまな人が集まり出会うことで、新しい刺激やアイデアが生まれ、街の人を楽しませる企画が次々と紡ぎ出される。
「黒板とキッチン」のように、空き店舗を大胆に改装して新たな価値を生み出す動きは、ゆりの木通りのトレンドだ。この地域の商店街では’09年頃、戦後復興時に建てられた商業ビル内で空き店舗が急増した。しかしこれらの空き店舗は、街に移り住んできた新進気鋭のクリエイターたちの手により、ここ数年次々と息を吹き返している。ゆりの木通りに面する古いビルの中では、今、数々のスタイリッシュなアトリエ風の空間が生まれ、若手の出店が続いている。
’13年、ゆりの木通り商店街は自らのありたい姿を「こだわりのある物販店の街」と明確に定め、翌’14年から’15年にかけて、「こだわりの店を増やして商店街の魅力をアップ!」と称したプロジェクトを実行(平成25年度商店街の自主取組み提案事業、平成26年度トライアル実行支援事業を活用)。田町東部繁栄会会長の鈴木基生(もとお)さん(以下、基生さん)、建築家の彌田(やだ)徹さんらが中心となり、滞在型ワークショップ・セミナー(浜松や近郊で活動している職人を商店街に呼んで行うワークショップ)、ショップ・カードづくり(商店街の専門店の面白さを紹介するカードづくり)、ネイバーズデイ(新規店舗と既存店舗の交流会)などユニークな取組みを進めてきた。
これによって商店街は「こだわりのある物販店の街」としての自身のイメージを深化させると同時に、新規出店する者が地域とつながりやすい環境を整えていった。
「面白い人が集まり、楽しい企画が生まれる街」「古い建物から斬新な空間が生まれる街」「こだわりをもつ物販店が集まる街」――こうしたイメージに、多くの若者が惹きつけられる。’14年頃から、ゆりの木通りへの新規出店希望者は増え続け、メンズウエア、書籍や雑誌、陶器、サーフボード、骨董品などの多種多様な方面で〝こだわりをもった〞若者たちが、小粒ながらも魅力に溢れたセレクトショップを次々にオープンしていった。
’13年に67だった店舗数は、’17年には90以上にまで増加。結果、週末になると県外からも多くの買い物客が訪れるようになり、そのにぎわいによって既存店も刺激を受けていった。 「これまでずっと週末に閉まっていた喫茶店が、最近は必ず開くようになったりと、新しく入って来る店だけでなく、今ある店も含めて街の様子が変わってきています。この場所で何かできないかと相談をしていたら、周囲の人たちが面白さをどんどん追及して形にしてくれました」と、基生さん。人と人がつながり、多様な価値観を柔軟に受け入れて進化するゆりの木通り。今後の展開に目が離せない。
★この記事は、商店街活性化の情報誌「EGAO」の2017 Autumn(秋号)に掲載されています。
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