商店街名 | 日町商店街振興組合・山形まちづくり株式会社/山形県山形市 |
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山形市の街なかににぎわいをもたらし続ける元気な七日町商店街。しかし、この商店街にも過去に大きな危機があった。それは内部分裂。当時地方紙は、商店街が消滅すると連日書き立てた。そんな窮地を救ったのは、それまでに商店街が築き上げてきた組織のカタチだ。危機を乗り越え長足で前進するその歩みを追う。
(左)七日町のまちづくりを牽引する下田孝志さん。(右)山形まちづくり株式会社取締役の佐久間太樹さん。
東北で屈指のにぎわいをみせる七日町商店街。最寄り駅から徒歩で15分以上離れた立地ながら空き店舗はほとんどなく、個性的な店や場所が次々誕生。多様なイベントを開催し、大学や行政との連携も強い。その繁盛ぶりの秘密は、ひとえに〝組織の強さ〞にある。
中心市街地の活性化を牽引している同商店街振興組合は、’64年、その3年前に設立された青年会を母体に誕生。’70年代に入ると、「商売の片手間では思い描く未来を迎えられない。専従者を置くべき」という声が高まり、加盟店舗が資金を出し合い、まちづくりにかかわるプロフェッショナルを組合事務局スタッフとして雇用した。以来、事務局と若手主体の組合執行部が両輪となり、10年ごとにビジョンを再構築しながら、先を見据えた組織活動を行っている。たとえば、’90年代に郊外にできた大型店の勢力におされた時も、いち早く時流を読んだ商店街が中心となり、街なかににぎわいをもたらす事業を展開することで、街の課題を解決していった。
しかし、この強い組織も危機的状況に陥ったことがあった。それは’11年、自転車道拡張のための道路整備が持ち上がった時のこと。商店街の中で推進派と反対派が激しく対立し、組合運営のあり方が問われる大騒動へと発展、連日地方紙に報じられるまでになった。そしてその責任を取り、それまでまちづくりを担ってきた執行部や若手理事が一斉に退任してしまったのだ。
その時機能したのが事務局である。事務局は、事態の推移を見守った後、中心となるべき理事を説得し執行部として再編成させ、実質的にまちづくりを推進できる若手メンバーを理事に返り咲かせた。
事務局と執行部とが運営上分かれていて、かつ互いを尊重し合える関係だからこそ、非常時にも機能停止に陥らずに歩みを進めることができたのだ。もとは青年会から興った商店街は、ことが収まれば、「やる気のある若い人材こそ未来を切り拓く」という原点に立ち戻った。
このように逆境に強い組織ができた背景として、同商店街振興組合の5代目事務局長・下田孝志さんは、この土地の商人に脈々と受け継がれる〝自治の精神〞を挙げる。
「七日町は江戸時代の城下町。しかも、城主は25回も変わり、その都度ルールがブレました。この土地で商売を続けなければならない商人たちには、『お上が当てにならないなら自分たちの街は自分たちで守ろう』という精神が生まれ、その志が今も私たちの中にあるんです」
その精神は、平成の世に行われた街の再開発の上にも表れている。現在市民の憩いの場となっている「ほっとなる広場公園」の土地は、以前はある企業の私有地だった。街なかに広場をつくりたかった商店街は、更地になったその土地を企業から賃借し、にぎわいづくりのイベントを行うと同時に、周囲の老朽化した建物をもつ地主に再開発を呼びかけた。10年継続してこの活動を行った結果、山形市から「商店街がそこまでやるのなら市が買い取る」との申し出が。こうして再開発は、商店街が牽引するかたちで進んでいった。
’15年、商店街はまちづくり会社を設立し、次のステージへとまた一歩進んだ。エリアを超えたスピーディーな活動と、その収益を街に投資することが可能になり、同社はリノベーションやサブリースをメインにした遊休資産を活かしたまちづくりに取り組んでいる。長年地元で培われた信頼ゆえに、不動産情報は入手しやすい。それを貸す対象は、街の今後を託せる人材だ。
「七日町はバリューの高い土地のため、空き店舗が出ると地域外の企業も参入してきます。しかしそれが行き過ぎるとこの街らしさがなくなってしまう。私たちは、良い物件を七日町への想いが強い人に届けられるよう動いていきたい」
その想いが商店街のメンバーで共有され、人気店のオーナーが、志高い人材を自ら呼び寄せるというケースも生まれている。さらに、東北芸術工科大学および山形大学とも連携し、場の可能性を追求。学生が新しい視点で古い建物の可能性を見出す度、保守的だったオーナーの意識に変化が生まれる。こうして七日町は、大きく前進していく。
「商店街は地域の思い出を共有できる場所。どこにでもある街の姿にならないよう、みんなで七日町らしさを出していく」
下田さんはそう力強く語った。
★この記事は、商店街活性化の情報誌「EGAO」の2019 Autumn(秋号)に掲載されています。
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