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活性化事例

空き店舗がオープン半年で10 万人が来店する集客拠点に

地域振興

空店舗活用

商店街名 若桜街道商店街振興組合(鳥取県鳥取市)

鳥取城の城下町としての歴史を誇り、呉服店・洋品店を中心に栄えてきた若桜街道商店街。しかし時代の変化に伴い、空き店舗が増加の一途をたどっていった。打開策として商店街が起こした行動は、生活者のニーズに耳を傾けること。綿密なマーケティング調査を踏まえオープンした「食を通じた多世代の交流拠点」が住民を商店街に呼び戻す。

昼休み時、ランチを求める人でにぎわう「こむ・わかさ」

「食」×コミュニティ

「一日に500人を集客できる店舗は、市内でもほとんどない。大繁盛店ですよ」 と、笑みをこぼすのは、鳥取市の若桜街道商店街の渡辺博理事会長。商店街の再生をかけてオープンしたベーカリーとコミュニティスペースの併設店舗 「こむ・わかさ」の盛況ぶりを評しての言葉だ。

客層が時間帯によってきっちり分けられるのもこのロケーションならではの特徴だ。朝7時30分のオープンと同時に焼きたてのパンを求めてやってくるのは周辺住民。昼休みにはランチを求めるビジネスパーソンが列を作り、午後は憩いのスペースとして主婦や高齢者たちの語らいの場となる。さらに、週末はセミナーやカルチャースクールが開催され、一段とにぎわいを増す。

2012年3月のオープンから半年足らずで、来店者は10万人を突破した。 半年前まで、ここが空き店舗だったとはとうてい思えない。

住民のニーズに合う店舗がない
若桜街道商店街は、駅から続く大通りに面する。若桜街道は、山間の元宿場町、若桜町へと続く。

若桜街道商店街のある戎町は、鳥取城の城下町として栄えた歴史のあるまち。そのせいか、呉服や婚礼家具などを扱う店舗が軒を連ねる、いわゆる“晴れの装い”が揃えられる特徴的な商店街として発展してきた。昭和18年の大地震、27年の大火によりたびたび壊滅的な被害を受けたが、その度に力強く立ち上がってきた。今に至っても、呉服店や紳士服、洋品店の数は多く、商店街の顔となっている。

しかし、隆盛を極めたのは昭和40年まで。モータリゼーションの発展、それに伴う大型駐車場を備えた大規模商業施設の進出が、商店街を直撃した。
鳥取県は、全国でもマイカー普及率の高い県のひとつだ。とくに軽自動車は世帯当たり0・976台(2010年)と全国1位で、3、4台を保有している世帯も珍しくないという。
車はまさに買い物の足。当然、駐車場が完備され、「なんでも揃う」大規模商業施設に利用客が流れ、食料品や生活用品を扱う店がほとんどない若桜街道商店街の客足はますます遠のいていった。

「昭和40年代以降、アーケードや歩道の整備を繰り返してきたのも、危機感の表れです。なんとかして客をつなぎ止めようと、それなりにがんばってきたのですが、空き店舗が増えるのを食い止められませんでした 」 (渡辺理事会長、以下同)

綿密なマーケティング調査から隠れていたニーズを顕在化

転機が訪れたのは、地域商店街活性化法ができた2009年のことだった。全国で商店街再生の気運が高まる中、若桜街道商店街も独自の活性化策の検討を始めた。
鍵となったのは、空き店舗対策だ。老舗ぞろいの個店の業態を変えることは一筋縄ではいかないが、空き店舗を活用して、地域のニーズに合った集客スペースを作り出し、人気が定着すれば、市の中心部のこと、生活しやすいまちとして見直されるはずと考えたのだ。
「まちが活性化するには、まず人が増えないといけません。そのためにどうするか、われわれに何ができるか、大きな課題を突きつけられた気がしました」

その課題解決に向けて、2010年度全国商店街支援センターの「商店街活性化支援プログラム事業」を実施。商店街では徹底した調査を行った。地域の人口動態を整理検証する一方、商店街を通学路とする中・高校生や、近隣の県庁、市役所をはじめとしたビジネスパーソンを呼び止め、アンケートに協力を依頼、さらに個店の来店客にもアンケート用紙を配り、約300人から回答を得た。また、キーターゲットとなる30代から60代の主婦を集めて、ヒアリング調査も複数回行った。

そこで見えてきたのは、まず、買い物弱者が生じつつある実態だ。古くからのまち並みである1㎞圏内の人口では65歳以上が40%を超える。だが、商店街には、彼らがもっとも欲しい生鮮品や総菜を扱う店はない。
「重そうな買い物袋を提げたおばあさんが長い商店街を歩いて帰っていくのはかわいそう、といった声が聞かれました。うすうすはわかっていたのですが、数字として突きつけられると、ぐうの音も出ませんでした」

一方、高齢者と若年家族との意外な協力関係も見えてきた。1㎞圏内の高齢化エリアを取り囲むようにして広がる郊外型の住宅街には、その高齢者の息子、娘夫婦が暮らしている。市の中心地に通勤する共働き世帯のため、当初は託児所のニーズがあるかと考えたが、多くの共働き夫婦は、幼稚園、保育園が終わった後、子どもを祖父、祖母に預かってもらっているケースが多いことが明らかになった。むしろ、高齢者と孫がともに集える「祖父母の孫育サポート」機能に潜在ニーズがあることが見えてきた。
こうした調査の結果 、「食を通じた多世代の交流拠点」というコンセプトが定まった。

地域コミュニティ活性化の担い手として再出発した商店街
2010年に行った実証実験の様子。多くの住民でにぎわった。

アンケートと並行して2010年10月、実証実験「ごちそうマルシェ」を実施した。住民が憩えるスペースを設置し、収穫祭をイメージして、地元食材を使った軽食をふるまった。この企画は大盛況で、目標の800人を大きく超えた2000人が来場、商店街が考える方向性に確かな手応えを感じる結果となった。

この結果を受けて、出店者の検討を開始する。当初は多くの食材、総菜を扱うミニスーパーを計画。打診したスーパー側も検討してくれたが、出店予定の空き店舗は、スーパーにしてはスペースが小さいこと、また採算性に疑問も呈され、交渉は止まってしまった。

次に候補に挙がったのがベーカリーだった。実は、アンケート調査では、ベーカリー、スイーツを扱う店は、希望する業種のトップとなっていた。生活への密着度からスーパーとの交渉を優先したが、それほどニーズがあるのなら、ひとつ当たってみようと、焼きたてのパンを 105円均一で販売している地元の有名ベーカリーに打診した。

「郊外の周囲を田んぼに囲まれた中でも行列ができるベーカリーで、出店してもらえれば、こんなにありがたいことはない。とはいえ、出店予定地は、以前にコンビニエンスストアが撤退した経緯もある場所ですし、出店にはずいぶん悩んだことと思います」
商店街では、具体的な出資割合、来店目標や売上予測など、事業計画を包み隠さず話し、信頼関係を育み、ついには合意に至った。

そして、2012年 3 月14 日「こむ・わかさ」がオープン。その盛況ぶりは前述の通りだ。人が集まる場所は情報発信の場所としても好適で、商店街主催イベントの告知やカルチャースクールの募集告知チラシなどを設置すると、次々と持って行かれ、イベントやカルチャースクールの集客増への好循環も生まれている。

生活者の日常にちょっとした楽しみを
店舗内の黒板にはイベントの予定が書かれている。

綿密なマーケティングに基づき、関係者の熱意によって実現したまちの繁盛店。「食を通じた多世代の交流拠点」を創出するという若桜街道商店街の当初の目標は、一応の成功を見たが、事業全体で考えると、これは出発点に過ぎない。商店街ではこの成功を個店それぞれの売上につなげることを次の目標に掲げている。そのためには、それぞれの個店が、来街者のニーズを正面から受け止め、経営を工夫する必要がある。その鍵を商店街では 、 「ちょっとした楽しみを提供すること」と考えている。

「単に買い物ニーズを満たすだけなら、どんな商業施設でもできます。郊外店にはできないけれど、商店街だからできることというのはきっとあるはずです。実際、こむ・わかさを使って、地元商店街のカメラ店がカメラ教室や作品展を開いて好評を得ていたりします。呉服街ですから、着付け教室をやってもいいでしょう。そうした楽しみ方をもっともっと提案することで、商店街の独自性も生かしながら、便利なまちに育てていければと願っています」

楽しみを提供できるスペースや店舗が増えれば、商店街全体の回遊性も向上する。2014年度の建設予定で、商店街の入り口にあたる地区で共同建て替えプロジェクトが進んでいる。オープンスペースが多く、人が出入りしやすい建物が計画されており、運用次第では楽しみを提供できる機会は大きく増す。
もちろん、建て替えを待つだけでなく、各商店主の一層の自助努力が求められているのは言うまでもない。

【COLUMN】歴史にちなんだストーリーづくり
若桜街道沿いで農業を営む田中農場の加工品。こむ・わかさの人気商品のひとつだ。

若桜街道商店街の名前の由来ともなっている「若桜街道」は、近世、鳥取城から領内への交通路として整備された街道のひとつだ。商店街を貫く大通りを南に進むと、バイパスを経由してかつて宿場町だった若桜町へ行き着く。商店街では、この歴史をテーマのひとつに掲げ、若桜街道沿いの農家や農産加工品業者と提携。「若桜往来」と銘打って、朝市などのイベントで、新鮮な野菜、農産品、農産加工品を扱うほか、こむ・わかさ内でも農産品を販売している。

ちなみに街道には若桜街道のほか、岡山方面に延びる智頭街道、西へ延びる鹿野街道があり、その出発点にあたる鳥取市内の大通りの商店街では、朝市などを開催して、産品を提供している。消費者にとっては 500m 足らずを移動するだけで、県下のさまざまな産品が手に入るのも魅力となっている。

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