商店街名 | 水道筋商店街/兵庫県神戸市 |
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神戸市灘区の水道筋商店街は、複数の商店街と市場からなり、生活に密着した店舗を500余り抱える大規模商店街。時代の変化や災害の影響を受けつつも、独自の手法でにぎわいを創出してきた。近年は、「まち歩き」でレトロ感漂う商店街の魅力を存分にアピール。確かな成果を上げている。
「つまみ食いツアー」では店主の話を聞きながら店の名物を食べる。その場で買い物をする参加者も少なくない
大正時代に発祥し、神戸の海の手と山の手の中間に位置する水道筋商店街。450mのアーケードをもつエルナード水道筋(=水道筋商店街協同組合)をはじめとする8商店街4市場からなり、神戸市有数の商業地として発展してきた。しかし平成の時代になると、大型商業施設の進出や阪神・淡路大震災での被災、加えて新型インフルエンザの風評被害により、商店街の人通りは激減する。
そこで若手店主たちは地域の人々と連携し、さまざまな企画を立案。’12年には商店街の見どころをテーマ別に紹介するユニークな地図やまち歩きガイドマップを制作。さらには複数の店主たちがリレー形式でガイドをしながら歳末のにぎやかな商店街を案内する「商店主リレーツアー」を実施するなど、観光の要素を取り入れた活動で商店街をPRしてきた。
これらの取組みがきっかけとなり、’15年1月、商店街観光をテーマにした本誌「EGAO」春号の特別座談会に、エルナード水道筋の運営企画部長・西井利行さんが登壇する。その際他の地域(長崎県と神奈川県)の事例に触発された西井さんは、水道筋でも独自の魅力を最大限に引き出せるまち歩きツアーを、と発奮。こうして、座談会からわずか2カ月後の’15年3月に、〝食〞にスポットライトを当てた「水道筋つまみ食いツアー」が誕生した。このツアーではガイドが商店街と市場の中から8〜9店を案内、参加者は各店についての話を聞きながら店主自慢の一品を食べ歩く。第1回目の開催から大好評で、以降、月1回の恒例行事となっている。
水道筋の〝食〞のイベントはこれだけにとどまらない。’15年4月には、「紙皿食堂」も開催。市場の空き店舗にテーブルを並べて、場内の精肉店、鮮魚店、惣菜店などから買ったものをカフェテリア方式で食べるこのイベントは、一般人にハードルが高いと思われている市場の専門店での買い物を、気軽に楽しんでもらう内容だ。翌’16年6月には、つまみ食いツアー参加者からのリクエストに応える形で、ちょい飲みツアー「水道筋的裏ミシュラン」も始まった。
「これらのイベントは、商店街から足が遠のいてしまったかつてのお客様に、再びいらしていただいて、水道筋で買い物をする楽しさを再発見していただきたいと企画しました。でも実際にフタを開けてみたら、参加者の半数は水道筋をまったく知らなかった、もしくは名前は知っていたけれど今まで一度も来たことがなかったという人たちでした。イベントが新しい顧客の開拓につながったのはうれしい誤算でしたね」と西井さん。
ツアー参加者からは「美味しいものばかりで感動した。インスタにアップし続けました」(初参加者)、「来れば来るほどに街の魅力にハマります。もう引越したいくらい」(リピーター)と好意的な声が次々に上がっている。店主たちの実感値では参加者の1割はツアー後に買い物に再訪しているという。
近傍のJR摩耶駅は’16年3月にオープンしたばかり。新駅開業に伴うマンションの建設ラッシュで、水道筋界隈に急増している新生活者に対しても、これらの取組みは有効な商店街のPRツールとなっている。
取材班は’17年11月14日開催のつまみ食いツアーに同行。
10時に商店街の守り神「汗かきえびす」に老若男女13人が集合。店主によるボランティアガイドが、街の歴史やお店の紹介をしつつ商店街と市場を案内する。パン屋さん、精肉店、練り物店、豆腐屋さん、青果店で足を止め、各店主の話に耳を傾けながら、店の名物を1品ずついただく。最後は協同組合の事務所でお惣菜とご飯を食し、12時過ぎに解散。参加者は水道筋の食の力を体感。みな笑顔を浮かべていた。
市場をカフェテリア方式の食堂と見なすイベント。参加者は予め配布された紙皿プレートと割り箸を持ち、市場の各店で好きな食べ物を購入し紙皿に載せ、空店舗内に設えられたテーブル席で食す。参加店舗数は、’15年の開始以降徐々に増え、現在は市場の7割の33店舗。たとえば通常はセットで出している寿司や刺身を、イベント当日は小分け販売するなど、店主のちょっとした工夫のもと、小さい子どもから高齢者までの幅広い世代が、気軽に市場の食を楽しめるようになっている。
地元の知る人ぞ知る名店を3店舗巡り、1店舗につき30分で1フード1ドリンクを食べ歩く(追加注文は任意)。店のチョイスはガイド(ボランティア店主)任せ。土曜の夜の営業が始まる前の時間(16~18時)を活用して実施されている。つまみ食いツアーと同様、参加者にとってはひとりでは入り難いお店を知る機会となり、参加店にとっては新規見込み客の開拓につながる。商店街側も参加者と参加店をつなげることで自らをアピール。三者 WIN-WIN-WINのメリットがある。
’17 年、読売グループが行う神戸の春と秋のツアーの立ち寄りスポットとして選ばれた水道筋商店街。屋台や縁日、地ビール販売、日本酒の振る舞いや、紙皿食堂、抽選会、近隣の王子スタジアムにちなんだアメフトチアリーダーのパフォーマンスなど商店街始まって以来の大規模なイベントとなった。桜の見頃の春のツアーには2,000人もの参加者が。新聞、インターネット、駅のポスターなど複数の媒体で商店街の名とともにツアーがPRされた。
実行メンバーは、主にエルナード水道筋に店を構える店主たち。しかし、つまみ食いツアーや紙皿食堂は、参加者を市場の奥へと誘う。
「水道筋は市場に魅力が詰まっているんですよ。迷路のような細い通路を歩けば、海から上がったばかりの活きのいい魚、カゴに盛られた色とりどりの野菜、量り売りされているおふくろの味(惣菜)が、目に飛び込んできます。そんな、商いの原風景のようなところにお客さんを連れていきたいんです。市場の魅力を知って、水道筋のファンになっていただければ、それは我々エルナードの商売にもプラスになります」
集客が見込めることがわかり、当初は取組みに興味を示さなかった市場の昔気質の店主たちも、徐々に協力的になってきた。
「工夫次第で効果を得られる。そんな体験をみんなで共有することで、街のモチベーションが高まる。これからも地域一帯で盛り上げていきたいですね」
市場の魅力に光を当てれば水道筋全体の益になる。そう信じて進めてきた取組みが、市場と店街の心の距離を縮め、意識の共有が生まれている。今後はさらに連携を強めつつ、よりダイナミックな活動を求めてまちづくり会社の設立も視野に入れていくそうだ。
「人情味ある個性的な店が多くて活気がある。ひと目で気に入りました」と水道筋の魅力を語るオーナーの朴さん。物件を探すため、1年間商店街の喫茶店でアルバイトをした。「コーヒーを売りながら顔を売りました」と笑う朴さんは、つまみ食いツアーのアシスタントとしても活躍した。
’17年7月オープンの「ゲストハウスMAYA」は古い診療所をDIYで改装したもの。その作業には近隣住民含め300人以上が参加。「水道筋の魅力を世界中に伝えたい!」という熱い想いの発信拠点となっている。
★この記事は、商店街活性化の情報誌「EGAO」の2018 Spring(春号)に掲載されています。
「EGAO」をご覧になりたい方はこちらへ。