商店街名 | フラノマルシェ/北海道富良野市 |
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富良野市の複合商業施設「フラノマルシェ」。地産の食の物販やお土産品が並び、子どもの遊び場などもあるこの施設は、街の行く末に危機を覚えた地元の人々が思いをひとつにして誕生させた。地元ならではの視点で、街全体への波及効果は極めて高い。その取組みを取材した。
国民的ドラマ「北の国から」の舞台として知られる北海道富良野市。ロケ地だけでなく、ラベンダー畑に代表される豊かな自然やスキー場といった多くの観光資源を有しており、ピークからは減っているものの、いまでも約180万人もの観光客を集めている。だが、実はここに大きな問題がある。前述の観光地はいずれも郊外に位置し、観光客は富良野駅周辺の中心市街地を素通りしてしまうのだ。次第に街は衰退し、店を廃業するケースが後を絶たなかった。
「中心市街地が寂れてしまうと、街全体のイメージや価値が低下し、コミュニティもなくなってしまう。観光地頼みではない仕組みが必要でした」
そう話すのは、ふらのまちづくり株式会社代表の西本伸顕さん。長年、中心市街地の再生に取り組んできた富良野のキーパーソンだ。もちろん、行政とて手をこまねいて眺めていたわけではない。’00年代には駅前の再開発を実施。しかし、衰退は止まらなかった。そのうち、富良野五条商店街にあった総合病院が移設。街の一等地が空き地になってしまったのだ。商店街は、病院の利用者を主なお客さんとしていたため、危機感はさらに募る。だが、西本さんと、その想いをともにする仲間たちは、このピンチに活路を見出した。
「このままではナショナルチェーン店が入り、よくある地方都市の姿になる。この機会に、これからの時代に必要なモノやコトを中心部に再結集するまちづくりをしようと決心しました」
決断後の行動は早かった。
’07年に商店街や行政、商工会議所、まちづくり会社などからなる富良野市中心市街地活性化協議会を立ち上げ、以降、協議会が中心市街地再生の旗振り役に。そこでの議論の結果、「民間主導のまちづくり」と「ビジネスモデルの構築」を本格的に目指すことになった。
継続的なまちづくりを行うにはしっかりと収益をあげ、投資し続けるサイクルが必要。そのためまちづくり会社をディベロッパー化し、複合商業施設を管理運営することでリーシング収入や売上マージンを投資に利用できる仕組みを編み出した。
さらに、施設のテーマを〝食〞に定めた。
「観光地に目が向きがちですが、富良野は野菜や果物、肉、牛乳、ワインに至るまで、食の一大生産地。豊富な食文化の魅力と一緒に街の情報を発信することでにぎわいの拠点づくりに取り組む『フラノマルシェ構想』が生まれました」
加えて観光客ばかりでなく地元に暮らす人たちも気軽に訪れて交流できる〝サードプレイス〞としての役割も果たせるよう、子どもの遊び場やイベント広場も整備。’10年4月、ついにフラノマルシェはオープンした。
結果から言うと、フラノマルシェは大成功を収めた。
あらゆる人がここでショッピングや交流を楽しみ、年間来場者数は初年度で55万人。その勢いに乗じて、保育所やクリニックなど福祉的な施設を集約した「ネーブルタウン(フラノマルシェ2)」も’15年にオープン。口コミで評判が広まり、いまでは来場者は120万人を数える。
それだけではない。フラノマルシェから中心市街地への回遊が進み、街ににぎわいが生まれているのだ。
「マルシェ内に飲食店はあえて置いてません。テイクアウト食品だけにして食事は街なかで取っていただく。そのためにインフォメーションセンターを設置し周辺も案内しています」
フラノマルシェは街に開かれたコミュニティとして機能し、周辺では売上倍増となった店舗や約40店もの新規出店が実現。さらに、商店街と連動してイベントを実施するなど、マルシェと街の好循環が確立している。
「目に見える経済効果はもちろんですが、お店のマインドがポジティブに変化したことが大きかった」と西本さんが言うように、近隣の新相生商店街振興組合では、’17年に支援センターの「トータルプラン作成支援事業」を実施。その結果フラノマルシェを念頭に置いた回遊性向上のアイデアも生まれている。今後の見通しは明るい。
「〝おじさんたちのまちづくり〞という物語がメディアでも取り上げられましたが、実際この取組みはとても一人ではできません。さまざまな人々が自らの得意分野を活かし、街のためを思って動き続けた結果です」
街に空白が生まれる危機をチャンスと捉え、民間主導で街を動かし、地域の魅力を再発見・発信し街ににぎわいを創出する。この壮大なアクションを支えたのは、富良野を愛する人々の熱烈な想いだった。
’17 年10 月に富良野市で行われた「全国あきんどサミット(第14回 共通商品券全国大会 in 富良野)」。
西本さんは「中心市街地によるまち育て」と題して、マルシェの取組みについて基調講演を行った。その後のパネルディスカッションでは世田谷区の保坂展人区長や(株)まちづくり岡崎代表・松井洋一郎氏らとともに、これからの街に必要なモノ・コト・ヒトについて活発かつ多角的な議論を交わした。
西本さんはここで「まち育て」という継続的な意味合いのある言葉を提案。パネリストから賛同が相次いだ。また、少子高齢化を迎え、コミュニティの場としての商店街の重要性について、認識を共有。多くの示唆に富んだサミットとなった。
★この記事は、商店街活性化の情報誌「EGAO」の2018 Spring(春号)に掲載されています。
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