商店街名 | 中町商店街振興組合/長野県松本市 |
---|
インバウンド(訪日外国人旅行)と商店街は無縁ではない。しかし、増える外国人観光客を前に、何から始めればいいのか頭を抱えている商店街は多い。外国語のツール作成はもちろん大切だが、中町商店街の取組みは、その根本にある「おもてなし」の心を教えてくれる。
朝10時のオープンと同時に外国人観光客が次々と入館。折り紙、書道などの初めての体験に熱中していた
城下町の風情が色濃く残る、人気観光地・長野県松本市。’17年9月、松本城からほど近い中町商店街の一画に人だかりができた。通りの中央に位置する、蔵を改装した多目的スペース「蔵シック館」にかけられた看板には「Japanese Culture Experience Days(日本文化体験デー)」とある。
館内には茶道や書道、折り紙などの体験スペースが設けられ、表の広場では商店街オリジナルの日本酒試飲や手裏剣投げを開催。また、商店街内の10店舗でも、趣向を凝らした文化体験のプログラムを実施。英語の店頭案内サインや、和装姿の地元高校生たちの声がけに引き寄せられ、外国人観光客が次々と足を止める。
「松本は欧米を中心に外国人観光客が増えていますが、商店街への滞留・回遊に結びついていない。中町商店街ならではの〝おもてなし〞ができないかと考え、このイベントを提案しました」
そう話すのは、中町活性化委員会委員長を務める花岡由梨さん。30代の若さながら、’15年に商店街理事になり、この2日間の日本文化体験デーを中心となって企画。商店街の内外から協力者を集め、実現にこぎつけた。
「蔵シック館」でのプログラムは、どれも30分程度で気軽に体験できるものばかり(一部有料)。大人から子どもまで夢中になって楽しんだ。
次世代の育成も目的にして、中町活性化委員会が組織されたのは’13年のこと。ワークショップや各班会議で、商店街として取り組むべきテーマについて話し合ってきた。そして’17年、かねてからの課題であった外国人観光客への対応について本腰を入れることに。議論の結果、商店街で日本文化を体験してもらうという初のおもてなしイベントを実行することになった(支援センター「トライアル実行支援事業」を活用)。
まず手掛けたのは英語版の商店街ガイドマップづくり。街を安心して楽しく回遊してもらえるように、わかりやすさと外国人の好みも重視した。そのために花岡さんたち委員会のメンバーは商店街の店舗を一店ずつ取材撮影し、セールスポイントをリサーチ。結果、各店の魅力の再発見にもつながった。
メイン会場となる蔵シック館での主な体験プログラムは9種類を考案。なるべく多彩なものにしようと奔走した結果、企画に賛同した人力車、着物体験など中町商店街以外の事業者が快く参加してくれた。
開催に向けては、事前周知にも注力。メンバーは外国人客が利用する宿泊施設にも足しげく通って協力を仰ぎ、当日は「ホテルの人から紹介されてきました」など多くの外国人が案内・誘導されて蔵シック館を訪れた。
さらに花岡さんは地元のインバウンド関連の会への参加をきっかけに、松本県ヶ丘(あがたがおか)高校英語科にも協力を依頼。当日は40名の生徒が、得意の英語でプログラムのアシスタントや道案内係として大活躍した。
こうして、商店街を中心に地域一丸で取り組んだ日本文化体験デーに訪れた来場者は629人にのぼった。
「実は中町商店街は立地的に恵まれていて、外部と協力する機会はありませんでした。今回生まれた近隣の団体、事業者との連携はこれからも大事にしていきたいし、できることの可能性が広がりました」と花岡さん。このような動きを、年長者たちもあたたかく見守っている。
「成功に向けて本気で取り組んだことで、長幼が分け隔てなく本音を言える関係性も生まれた。新風を吹き込んでくれた若手世代を私たちはサポートしていきたい」と中町商店街理事長の佐々木一郎さん、専務理事の清澤進さんは声をそろえる。
個店の体験プログラムに参加した三味線教室を営む芸游館の秀由端(伊東貞子)さんも、「イベントにかかわり、自分も街の役に立てることがわかった」と興奮気味に話す。組織全体の士気が上がり、一致団結する空気も生まれた。
今後は、イベントの参加者のアンケート結果を検証し、それをもとに近隣の観光地も含めて回遊性を高める仕掛けを考えていく。合わせて商店街の各店舗の魅力も深掘りして伝え、より中町を楽しんでもらえるおもてなしを目指していく。
★この記事は、商店街活性化の情報誌「EGAO」の2018 Spring(春号)に掲載されています。
「EGAO」をご覧になりたい方はこちらへ。