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活性化事例

やっぱり買い物がしたい! 高齢者の声に応える送迎自転車

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商店街名 村山団地中央商店会/東京都武蔵村山市

‘95年に準備が始まってから現在まで続く団地の改修工事に伴い、高層住宅に移った高齢者の「買い物弱者化」が進んでしまった都営村山団地。商店街は打開策として’07年に宅配事業を開始し、さらに’09年からは送迎自転車サービスをスタート。手厚いサポートで、地域の高齢者から喜ばれている。

送迎自転車は団地の端まで約800mの距離を往復。利用者は1日平均10名、多いときで約20名にのぼる

高齢者が求めていたのはコミュニケーション

高度経済成長期の只中である’66年に完成した都営村山団地。年を追うごとに建物の老朽化が進み、’90年代後半からは大幅な改修・改善がスタートした。それにともない、住民はこれまでの2階建ておよび5階建て住宅から高層住宅に移り住むことに。また、新たに建設された高層住宅が団地内の村山団地中央商店街から少々離れた場所だったため、商店街で買い物をする人の数は下降線を描くようになっていった。ちなみに、同団地は高齢化も進んでおり、’90年代に入ってからその割合は徐々に増加。’18年の集計では高齢化率が約51%、75歳以上の人口が約31%を占めている。

商店街は解決策として宅配サービスを考案し、有志7店によってスタート。このサービスは現在も継続して行われているが、実施にあたり利用者から多く聞かれたのが、「自分の目で商品を選びたい」「お店の人と会話をしたい」という声だった。宅配サービスで商品購入はできるが、自宅にこもりがちな高齢者が切実に求めていたのは、コミュニケーションだったのだ。
「なかには、たびたび商店街と自宅をタクシーで往復して買い物をされる方もいました。申し訳ないので車いすで送り迎えしていたのですが、『これが自転車だったらもっと早くできるはず』と思うようになりまして。東南アジアでよく見られる、輪タクのような乗り物のイメージが浮かびました」
そう語るのは、村山団地中央商店会会長の比留間誠一さん。武蔵村山市および武蔵村山市商工会にアイデアを提案し、連携を図り、具体的な構想を練っていった。送迎自転車で高齢者の買い物をサポートすることで、商店街に再びにぎわいを取り戻せるのではないかという狙いもあった。

そして’09年、以前から知り合いだった静岡のメーカーに試作車の製造を依頼。さらに、商店街の空き店舗を活用して送迎自転車の拠点「おかねづかステーション」を設置。こうして準備が整い、同年10月1日から無料送迎自転車サービスの運行がスタートした。稼働時間は、平日の10~12時、13~15時で、必要によって17時まで対応。「おかねづかステーション」に常駐するスタッフが電話で依頼を受け、運転手が送迎するというスタイルだ。当初は店主が運転手を兼務していたが、本業に支障が出始めたため、専任の有償ボランティアスタッフを運転手として招くこととなった。

①まずは依頼を受けて
自宅から商店街まで
③買い物や井戸端会議を楽しんだら
④帰りも安心の自転車送迎!
送迎自転車がもたらした生活の質の向上
薬局での相談も気軽にできるようになった。

手探りで始まった送迎自転車の運行だが、利用者は右肩上がりで順調に推移。その数は、運行開始から約4年で延べ1万人を突破した。送迎自転車はクリニックや理・美容室、郵便局といった生活に密着したサービス業種とも相性が良く、利用者がこまめにサービスを受けられるようになった結果、商店街全体の利用が増加し、高齢者のコミュニケーション不足も徐々に解消されていった。だが一方で、送迎自転車本体の消耗は激しく、悪天候時に運行できないといった改良すべき点も浮き彫りになってきた。

そこで’13年から新型の送迎自転車を開発するためのプロジェクトを始動。その際には、武蔵村山市が製造業の集積地域であることをPRするチャンスと捉え、市商工会と同工業部会が協力。8回にわたる研究会議を経て、地元企業11社がプロジェクトに参加することとなった。なかには、有名メーカーのOEMを受注している地元企業も名を連ね、それぞれが知恵を持ち寄ってプロジェクトを動かしていった。送迎自転車の利便性を高めるため、足場を広くし、風雨を凌ぐためのカバーの取り付け、シルバーカーなどを乗せられる荷台の設置を行った。

そしてついに、’14年10月から「むさむら1号」の運用がスタート。’16年からは「むさむら2号」も仲間に加わり、現在は合計3台が住民の足として活躍している。大容量の荷台の設置で、利用者がビン類や大きな果物といった重い商品を買えるようになり、個店にとっても売上単価が上がることとなった。 商店街が活気を取り戻すと、個店もサービスに力を入れるようになる。惣菜店では注文を受けてから温かいおにぎりを握り、鮮魚店では店頭で魚を焼くという工夫が好評を博している。比留間さんが店主を務める「いなりストアー」でも、ミシンを使った衣類の無料補修を実施している。
また、送迎自転車サービスは、運行が始まった当初からメディアの取材が引きも切らず、テレビの生中継でも放送された。結果、団地内はもちろん、全国的にも送迎自転車の名が知られるようになった。全国からの視察も後を絶たず、これまで一年間に約9回のペースで、計80回の視察を受け入れている。

送迎自転車を前にする、村山団地中央商店会会長の比留間誠一さん。
後部には荷物を積み込めるので、安心して重いものも購入できると好評
見守り効果に着目し地域に広がる連携の輪
高齢者の憩いの場となっている「みまもり相談室/ふらっとコミュニティ みどり」

送迎自転車サービスは、高齢者の見守りの強化にも効果を及ぼしている。普段から、運転手が走行中に団地内で困っている人を見つけると意識的に声がけするなどしていたところ、新しい展開が生まれた。

「『商店街があそこまでやっているのだから、市としても対策をしよう』という話になったのでしょうね。2カ月に1度、警察、弁護士、民生委員、商店街のメンバーが集う『ひまわりネットワーク』という会議が開かれるようになったんです。そして、地域包括支援センターと連携し、心配な顧客について連絡を取り合い、送迎記録を残すようになりました。また、この商店街の空き店舗を活用して『高齢者みまもり相談室/ふらっとコミュニティ みどり』というスペースもできました。一日に延べ100名近い高齢者が出入りして、体操をしたり、お茶を飲んだりして楽しんでいます」

さまざまな取組みを続けている村山団地中央商店会。比留間さんは10年目標で現状維持を図りながら、新たなプランも着々と構想中だ。
「現在考えている計画のひとつは、年金支給日に近隣の信用金庫へと走る定期運行サービスを始めることです。また、将来的には送迎自転車を観光用としても使えれば、と考えています。武蔵村山市には『かたくりの湯』という温泉があり、近くを走る野山北公園自転車道(水道道路)がウォーキングコースになっている。沿道に花を植えるなどして、自転車を走らせたいですね」

村山団地の先進的な試みは、高齢化が進む全国の団地内商店街のロールモデルとなる可能性を、十分に秘めている。

【COLUMN】村山団地発!各地に広がる送迎自転車
花見川団地商店街振興組合(千葉県千葉市)

花見川団地商店街の「買い物客無料送迎自転車」は、買い物弱者支援を目的に’13年に導入。テレビで放送されたこともあり、現在は年間で約2,400人の利用者を数えるほどに。商店街の組合費で運営しており、「ボランティアの方に助けられています」(専務理事の越後さん)。最近では買い物代行の「御用聞き配達サービス」もスタートした。

館ヶ丘団地(東京都八王子市)

‘13年に運用が開始された館ヶ丘団地の「団地タクシー」。坂の多い団地や商店街、バス停などへの移動に一日約20人が利用している。運営は自治会で、かねてからの課題であった高齢住人の引きこもり問題解決のために導入された。運転手には近隣大学の学生も参加しており、若い世代との会話を楽しみにしている高齢者も多いとか。

★この記事は、商店街活性化の情報誌「EGAO」の2018 Autumn(秋号)に掲載されています。
「EGAO」をご覧になりたい方はこちらへ。

商店街活性化の情報誌「EGAO」

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