商店街名 | 岐阜柳ケ瀬商店街振興組合連合会/岐阜県岐阜市 |
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かつては昭和歌謡にも歌われた華やかなりし街、柳ヶ瀬。しかし、岐阜市の基幹産業だった繊維業が廃れ、周辺の商環境も変化したことから客足が遠のき、90年代にはシャッター街としてしまう。その街で十数年前、商店街の店主と地元のクリエイターたちが、同じ志を持つ仲間になった。そして今、さまざまな取組みが花開いている。
マーケット開催による多くの人のつながりが新規創業へと結実
「僕が連合会の理事長になったのが9年前、47歳の時。その数年前からだよね、末永さんたちとの交流が始まったのは」そう思い返すのは、岐阜柳ケ瀬商店街振興組合連合会(以下、柳商連)の理事長、林 亨一さん。’11年、店主も顧客も高齢化していた柳商連に、Uターンで地元に戻ってきた若手クリエイターからユニークな企画が持ち込まれた。「柳ケ瀬恐竜ラリー」というその企画は、柳ヶ瀬から北に50㎞離れた郡上市にあるロボットの製作所がつくった恐竜を商店街に置こうというもの。その提案者のひとりが、建築設計事務所「ミユキデザイン」の末永三樹さんだった。
「ただおもしろいことをやりたかったんです。『柳ヶ瀬ってシャッター通りが多くてお年寄りばかりだから、そこに子どもがわーっと集まったらめっちゃおもしろいやん。子どもを集めるなら恐竜じゃない?』って」
企画は、当時岐阜市中心市街地活性化プロデューサーをしていた末永さんの夫・大前貴裕さん経由で、柳商連へと渡る。林さんは、その企画と商店街の親和性の高さにすぐに気づいた。岐阜市は中心市街地に広い公園がなく、約300m×300mの商店街はパブリックスペースだとかねてより感じていたのだ。そして何よりアーケードなので雨が降っても、機械仕掛けの恐竜が壊れることはない。
恐竜ラリーは大盛況で、’12年からは「柳ケ瀬ジュラシックアーケード」と銘打ち、毎年継続開催することに。さらに’13年、商店街で和菓子店「ツバメヤ」を営む岡田さや加さんらも加わり、若者を主なターゲットにした古本市がメインのイベント「ハロー!やながせ」もスタートした。
しかし、こうしたイベントが盛り上がっても商店街の厳しい状況が変わることはなく、また手弁当が続いたためその運営を継続するのは難しかった。「商店街の人たちと関わるうちに、私たちにもまちづくり的な視点が芽生えてきました」と話す末永さんたちは、柳商連と関係を深めながら、持続可能なイベントの創出を模索。そして’14年、30〜40代の女性をメインターゲットに出店者を厳選することで、商店街のイメージを再構築する月1回のマルシェ「サンデービルヂングマーケット(以下、サンビル)」を始めた。
林さんはサンビルを、〝次世代の店主とお客様をリクルートする場〞と捉えていると言う。
「出店してもらっても、そこに若いお客様がいなかったら商売が成立しないし、若いお客様が来ても彼らに合う店がなかったらダメ。そうやって双方に来てもらって、柳ヶ瀬を買い物の場にする。そして、柳ヶ瀬はただのシャッター街ではなく、おもしろいことがいっぱいあるんだということにも気づいてもらう」
サンビルのファンは着実に増えていった。次はそのファンを柳ヶ瀬の日常へと引き込む番だ。その時建築家の末永さんが目をつけたのは、全国的にも珍しいフィルム上映の映画館が入っている、「ロイヤルビル」だった。
ロイヤルビルを柳ヶ瀬のまちづくりの拠点として本格的に整備し活用するため、末永さんたちと柳商連のメンバーは、柳ヶ瀬の活性化を事業内容とする会社を立ち上げることに。それが「柳ヶ瀬を楽しいまちにする株式会社」である。こうして体制が整い、ロイヤルビルの運用は本格的に進んでいく。’17年、ロイヤルビルは「ロイヤル40」へと変貌を遂げ、物販をはじめ、ワークショップやミーティングなど、さまざまな活動の場として活用されている。
この頃から商店街には新規出店者も増えてきた。しかし、それでも地域の人口が減少していく今の時代に、広い商店街のすべてを小売店や飲食店で埋めるのは現実的ではない。そこで、末永さんたちは空き店舗の2階より上をリノベーションしてシェアハウスとして利用してもらうことを考えた。現在複数あるシェアハウスには、20代中心の若者たちが入居中。この周辺に仕事を持ち、暮らすことで〝濃い商店街〞を体感している。
最近こうした柳ヶ瀬がおもしろい、柳ヶ瀬で働きたいという若者が増えている。「柳ヶ瀬を楽しいまちにする」に昨年入社した福富 梢さんもそのひとり。
「もともとこの近くの出身で、サンビルに買い物に来たり、いろんなイベントのポスターを見たりして、柳ヶ瀬におもしろい流れが来ていると感じていました。それで、浜松の大学を卒業した後、働くなら柳ヶ瀬がいいと思って戻ってきたんです」若手の活躍に、店主や近隣の大学、市などの協力も加わり、「こどものがっこう」や「柳ケ瀬日常ニナーレ」など、新たなイベントも次々に生まれている。
今、林さんが考えるひとつのゴールは、柳ヶ瀬を〝若い店主が自分らしい暮らしをしながら食べていける街〞にすること。好きなことを満喫する人が集まるのは充実した楽しい街。そういう街を創り出す商店街として存続していけたら。そんな未来が近づいているように見えた。
柳ヶ瀬の活性化には、「サンデービルヂングマーケット」の開催や、「ロイヤル40」の開設など、商店街だけでなく、外部のプレイヤーたちを巻き込み、さまざまなアイデアをアーケードというパブリックスペースで実現してきた歴史がある。空き店舗が減るきっかけとなった活動の一部を紹介しよう
Uターンの若手クリエイターが商店街を場として楽しむイベントをスタート
商店街店主 ×クリエイター が戦略的に動き出す
サンビルを運営する、クリエイターと柳商連の理事会メンバーの一部が一緒に立ち上げた会社。
現在では、柳ヶ瀬に魅せられて集まってきた若手も加わり、サンビルや活動拠点のビル「ロイヤル40」の運営を手掛ける
今では希少なフィルム映画館が入る元「ロイヤルビル」をまちづくり活動拠点兼ファッションビルとしてリノベーション。
休憩や打ち合わせができるスペース「やながせRテラス」もあり、セミナーやワークショップにも活用
【 POINT 】
・プレイヤーの増大
・岐阜市との連携強まる(シンポジウムやリノベーションスクールなど多数開催)
・大学や学生とのつながりが深まる
・アーティストやクリエイターも集まる
・新規店舗が増える
★この記事は、商店街活性化の情報誌「EGAO」の2023 Spring(春号)に掲載されています。
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