商店街名 | せと末広町商店街振興組合/愛知県瀬戸市 |
---|
少子高齢化の波が押し寄せ、空き店舗が増え続ける商店街。イベントを行っても出費がかさむだけで埒が明かず、未来が閉ざされかけたその時、手探りで始めたのが「マルシェ」だった。
お弁当を販売する橘 衣里さん(右)。マルシェをきっかけに商店街に実店舗「meguru」を構えた。
マルシェのにぎわいが新規出店を誘う
「理事長になった’19年、組合の加盟店7店舗が立て続けに閉店したんです。残る二十数軒も7割が70代以上の店主で、これは5年以内にはほとんどが閉店してしまい、商店街がなくなってしまうと危機感が募りました」
そう振り返るのは、愛知県瀬戸市のせと末広町商店街振興組合理事長・大橋徹太郎さん。生まれも育ちもこの街で、時代の移ろいを肌で感じてきた人物だ。同市は急激な少子高齢化に直面している地域。’20年には近隣の5つの小学校とふたつの中学校が廃校となり、ひとつの小中一貫校に統合された。
「地域住民は、高齢者が圧倒的多数。しかし、それでも若い人にも来てもらえるようにならなければ、商店街に明日はない」大橋さんは、当初、若い世代が喜びそうな祭りやイベントの開催に注力。しかし、恒常的な集客にはつながらず、やればやるだけ出費がかさみ、モチベーションは下がる一方だった。
そんな時、近隣の街で開催されていた「マルシェ」を知る。マルシェは、外部の出店者に商店街が場所を貸すだけでほぼ形になるイベント。商店街の労力も出費も抑えられ、また、既存店にない趣向の店、商品を並べることで新たな客層にもアピールできる。これはいい手段ではないか、と思った。
「出店者は、自分たちの街を盛り上げるぞという強い思いをもつ瀬戸出身の人が良い。人選で、そこだけはこだわりました」
その言葉通り、瀬戸市在住者に的を絞った声がけの結果、地元のキッチンカー販売事業者とアクセサリー作家が手を挙げ、企画の中心人物として商店街とともに活動するようになった。
こうして、’22年3月、空き舗跡の広場にキッチンカーを6台、アーケードに20の出店者ブースを並べ、マルシェのプレ開催が実現した。瀬戸焼の招き猫が地元名物でもあることから「千客万来 招き猫マルシェ」と名付けられ、それ以来、原則毎月2回(第2・第4日曜日)続開催されている。
マルシェは、「ナイトマルシェ」「子ども商店街」「ハロウィンマルシェ」など、時に趣向を変えて開催。そのなかで、市内の小学生対象の「子ども商店街」は、地域でのPR効果が抜群だ。この企画は、子どもたちがマルシェブースで実際に営業し、キッチンカーを手伝い、銀行員や警察官などの仕事を疑似体験する内容で、開催にあたり、市内の小中学校を通じておよそ1万人の児童、生徒の家庭にチラシが渡った。イベント後、商店街を歩く子どもの姿が格段に増え、それが高齢の店主たちのやる気を大いに刺激している。
マルシェの継続開催により、出店者と既存店店主とのつながりも生まれた。出店者が既存店の陳列棚の一部を借りて委託販売を開始するという、商売のコラボレーションも始まった。マルシェの人気商品がいつでも買えるようになったことで、市内外から開催日以外にも商店街に足を運ぶ人が増えた。
効果が見えてきたことで、大橋さんをはじめイベント担当の若手理事たちの気持ちも前向きに。会議ではマルシェの新しいアイデアについて活発な議論が交わされるようになった。上り調子の商店街は、新規出店希望者を惹きつける。マルシェ開始後たった3カ月で、7つの空き店舗が次々に埋まったのは、嬉しい驚きだった。
プラスの流れは今も続く。’23年4月には、元洋品店をリノベーションした、地域の拠点となるべく複合施設もオープンの予定。商店街はさらに求心力を増すことだろう。活性化の波が加速度的に生まれている。
’23年4月22日(土)、せと末広町商店街に、まちづくりの拠点となる複合施設「瀬戸くらし研究所」と地域の魅力を発信する土産物店「ヒトツチ」が同時にオープンした。
「瀬戸くらし研究所」は、1階に常設の飲食ブース3つとシェアキッチン2つを備え、この地域で飲食業で創業したいという思いを持った人たちのチャレンジを後押しする。また、ギャラリースペース、コワーキングスペース、シェア工房なども設け、瀬戸焼で有名なものづくりの街に集まる“ツクリテ”の活動もサポートする構えだ。 一方の「ヒトツチ」は、 陶磁器をはじめ、間伐材を使った木工品や、焼き菓子など“メイド・イン・瀬戸”の商品を通じて、街の魅力を多くの人に伝えたいと考えている。
マルシェを軸に瀬戸のクリエーターとつながって活性化の取組みを進めてきたこの商店街に誕生した新たな施設と店舗は、商店街の集客の拠点としてはもちろんのこと、マルシェ出店者がさらなるチャンスをつかむ場としても、大きな期待を集めている。
※ 「瀬戸くらし研究所」 と「ヒトツチ」のオープンについての詳細は、商店街ニュースをご覧ください。
商店街ニュース「まちづくり拠点とまちの魅力を発信する土産物店が同時オープン 商店街の未来が大きく動き出す」はこちら
★この記事は、商店街活性化の情報誌「EGAO」の2023 Spring(春号)に掲載されています。
「EGAO」をご覧になりたい方はこちらへ。