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活性化事例

6割が空き店舗だった商店街に小さな商いを集めて、大きな変化を起こす

地域振興

空店舗活用

創業・事業承継

商店街名 寿通り商店街/福岡県北九州市

「この小さなスペースだからこそ始められたんです」と口をそろえるのは、シャッター1枚分のコンパクトな区画で商売を営む店主たち。北九州市黒崎の寿通り商店街には個性豊かなショップが軒を連ね、現在空き店舗はない。しかしかつて14区画中8区画、つまり約6割が空き店舗だった。小さな商店街に起きた大きな変化とは――

店舗+住居だった木造2階建ての3物件をリノベーションし、シャッター1 枚分の店舗スペースを10区画つくった「寿百家店」。
2 階は4室とLDKを備えるシェアハウス。福岡さんと一級建築士の田村晟一朗さんが発起人となり’20年に設立した株式会社寿百家店が運営している

ゆるやかな関係性が次世代へつながっていく
株式会社三角形/株式会社寿百家店 代表取締役の福岡佐知子さん。「空き店舗があるのも悪いことばかりではありません。余白があるから、人を受け入れられるんです」

 戦後間もない頃から地元の人々の暮らしを支えてきた寿通り商店街。店主の高齢化やシャッターへの落書きが繰り返されるなど、小さな停滞が顕在化していた。どうにかしなければいけないと思うものの具体的な解決策は見つからない。

 ’13年、当時の理事長が相談を持ちかけたのが、PR・企画会社で黒崎の活性化に関わっていた福岡佐知子さんだ。福岡さんは、寿通り商店街で起業を志す人を対象にした講座とマルシェを組み合わせたイベントを企画。その後も月1回のペースで開催を続けた。

「この頃から〝小さな商い〞が街を復活させるきっかけになる可能性を感じていました」と振り返る福岡さん。当時は、通りにテーブルを出して高齢の店主たちと一緒に食事をしながらおしゃべりする会も定期的に開いていたという。

「私のような外から来た者が新しく物事を始める時には、既存の方たちの日常の輪に加わるのが自然なことだと思いました」店主たちや空き店舗のオーナーとの飾らない会話を重ねるなかで、「寿通りを復活させて、これから創業したい人が集まる場所にしたい」という共通の思いが高まっていった。

人が集まる場をつくり商売できる場も整えた
左上から時計回り)落書きされたシャッターが並ぶかつての姿。誰もが心地よく感じられるようやさしいパステルカラーをチョイス。空間をイメージアップしながら多くの人の笑顔が広がった。「閉まっている状態を良しとしたくない」という思いから絵は描かず、シンプルに。地域イベント「黒崎こども商店街」では子どもたちもペインティングに挑戦した。北九州塗装協同組合も活動に協力

 しかし、イベントの実施だけでは状況は何も変わらなかった。そこで福岡さんは、「だったら自分が当事者として本格的にここを動かす筆頭になろう」と決意。’15年に黒崎駅そばにあったオフィスを移転し商店街の一員になった。昼間は事務所、夜はワインバーとして新たなスタートを切った。寿通り商店街は完全に真っすぐな通りではなく、途中で折れ曲っている箇所があり、それが独特の〝おこもり感〞を醸し出している。そんな居心地のよい場所で人が人を呼び、ワインを片手にしたコミュニティが形成されていった。’17年には隣の区画に惣菜店「コトブキッチン」、続いて向かいにレンタルスペース「コトブキリビング」をオープン。静かだった商店街に少しずつにぎわいが戻ってきた。

 それでもまだ閉じたシャッターは多い。このシャッターを綺麗にすることで明るい雰囲気をつくれればと福岡さんの呼びかけで始まったのが「トムソーヤ大作戦」だ。トムが友人らと壁塗りをする物語にちなんで名づけられたこの取組みでは、落書きだらけのシャッターを街の人々や子どもたちの手でパステルカラーに塗り替えた。活動資金は寄付やオリジナル手ぬぐいの販売で集めた。活動に興味を持った有志がどんどん増え、シャッターがカラフルに生まれ変わるのと同時に商店街は明るく変化。人通りや空き店舗への問い合わせも増えたという。

 店舗を増やし商店街を盛り上げる取組みはさらに加速。次に着手したのは、60年以上の2階建て木造物件のフルリノベーションだ。かつて3店舗が入居していた1階部分をシャッター1枚分の10区画に分割。住居だった2階は4室+LDKを備えるシェアハウスとして生まれ変わらせた。〝小さな商い〞の拠点「寿百家店」の始まりである。

寿百家店2階のシェアハウス。共有のLDKも備えている

 ここでドライヘッドスパ+眼のアンチエイジングのサロンを新規開業した豊東久美子さんは、「賃料の高いところは難しいけれど、ここなら自分でもできそうだと思いました。コロナ禍なので、完全個室のコンパクトなスペースがお客様には好評。むしろ付加価値になっています」と笑顔で話す。近くでカレー店を営むかたわら無人古書店を開いた田中正樹さんも「本業をもちながら好きなことを小さく始めるのにちょうどいい」と言う。

 こうして寿通り商店街のシャッターは次々と開いていき、空き店舗はついにゼロになった。空き店舗対策で大事なことを福岡さんに尋ねてみると、「仲間を増やすこと、ではないでしょうか。自分たちだけでがんばるのではなく、違う価値観を持った外部の人を引き入れる。やりたいことやできないことをさらけ出し、頼ってみる。そしてその人の得意なことを見つけて、任せてみる」との答えが。

 小さなショップの店主たちもシェアハウスの住民も、やがて入れ替わっていく。しかしここで育まれた関係性が切れるわけではない。実際、寿通りを「卒業」し近くの大きな物件へ移転した人が、集まりにひょっこり顔を出し、情報交換をすることもあるそうだ。人も店も新陳代謝を繰り返しながらゆるやかなつながりを形成し、次の世代へと大きく広がっていく。

福岡さんが移転してきた’15年頃に開いていた店も、多くが高齢化を理由に次々と閉じていった。’19年頃がもっとも空き店舗が多く、14区画中8店舗が空いていた。現在は、3区画をリノベーションした寿百家店をはじめ入居が相次ぎ、空き店舗はゼロに。事務所兼ワインバーだった区画は、福岡さんから飲食事業を受け継いだ若手がコーヒー店を営む。レンルスペースはコトブキッチンで購入した物を食べる客席としても利用できる

\ 小さな商いが並んでいます! /

古書店「Book Band Book(s)」



店主とその仲間たちの「読み終わった本」が並ぶ無人古書店。会計は電子決済で行う。「電子決済に不慣れな方は、コトブキッチンに声をかけていただければ購入できますよ」

アート・雑貨店「はぷにんぐモンスター」



10年以上イベント出店活動をしていた作家3人で初めて持った実店舗。
「今でも週末はイベントに出続け、この店と商店街を知ってもらうきっかけをつくっています」

頭と眼の専門サロン「To me…」



「睡眠」をテーマに、ドライヘッドスパや眼のアンチエイジングのための施術を提供するサロン。「まわりには商売のベテランの方が多く、助けられています。ママ友もできました」


アーケードの入口には、人形焼きとラーメンの店も


寿百家店の直営店「あんとめん」として創業。かつて黒崎で販売されていたモダン焼きにインスパイアされた人形焼きが人気。「食はまちの資産。次の世代に受け継いでいくもの」(福岡さん)


★この記事は、商店街活性化の情報誌「EGAO」の2023 Spring(春号)に掲載されています。
「EGAO」をご覧になりたい方はこちらへ。

商店街活性化の情報誌「EGAO」

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