HOME > 活性化事例 > ひとつの空き店舗から生まれる たくさんのチャレンジ

活性化事例

ひとつの空き店舗から生まれる たくさんのチャレンジ

各種連携

子育て・高齢者

空店舗活用

コミュニティ

商店街名 能代駅前商店会(のしろ家守舎) /秋田県能代市

子どもが広いスペースで遊びまわり、親はカフェでくつろぐ。そんな光景が日常の、秋田県能代市の「マルヒコビルヂング」は、旧酒店がリノベーションで生まれ変わった施設だ。’19年の県主催の勉強会をきっかけに能代駅前商店会の有志と市、市民団体が一緒になって動き出した“空き店舗再生プロジェクト”は、街に居心地の良い場所と、新たな可能性を生み出した。

元酒店の空き店舗が、新たな人材が集まるコミュニティの場へ!

県の勉強会から始まる商店街再生の道
一連の取組みの立役者。右からのしろ家守舎の代表の湊 哲一さん、能代駅前商店会事務局の阿部 誠さん、能代市環境産業部の堀口 誠さん

 秋田県北西部の日本海に面した能代市は、秋田杉の製材・加工産業の発展で、かつては東洋一の「木都」として栄えた都市。しかし、昭和のピーク時から人口は4割減り、商業環境も大きく変化していく。気が付けば、JR能代駅の周辺に広がる商店街は3割が空き店舗となっていた。
 そんな商店街のひとつ、能代駅前商店会は危機感を抱き、会員が減少していくなかでも売り出しイベントや勉強会などを精一杯実施してきた。だが、それでも街の衰退への流れをせき止めることはできなかった。

 ついには、’88年から開催されてきた市の一大イベント「おなごりフェスティバル」も、運営スタッフの不足から、’19年の夏をもって廃止に。街からすべてのにぎわいの種と、地域交流の場が失われつつあった。

 そんななか、転機が訪れる。’19年の秋に「動き出す商店街プロジェクト」という勉強会を県が開催したのだ。市からの熱心なアプローチもあり、市内の商店街関係者や個人事業者、市民団体関係者など30人程が集まったその学びの場で、能代駅前商店会の阿部 誠さんと、Uターンの家具職人・湊 哲一さんは出会う。ふたりは街の課題や解決策を話し合ううちに意気投合し、プロジェクトの講師にも背中を押され、飲食店を経営する田中秀範さん、建築会社を経営する鈴木隆宏さんとともに4人で、合同会社「のしろ家守舎」(まちづくり会社)を設立。街のにぎわいを育てる場の創出に向けて動き出した。

「最初はよくある勉強会に参加するだけだと気軽に思っていたんです。それが、こんなにも大きな挑戦になるとは」と阿部さんは事の成り行きに今でも驚いているという。

 プロジェクトのフィールドワークでは、空き店舗ツアーを行う。その際に、’18年に閉店していた丸彦商店(地上2階地下1階のコンクリートの旧酒店)がコミュニティスポットとして最適だと感じた阿部さん、湊さんらは、当時建物の2階に住んでいた80代後半の地権者への説得に乗り出した。そこに、プロジェクトの参加者だけでなく、商店街の店主たちや市職員・堀口誠さんも加わる。みんなで代わる代わる足繁く通い、地権者とその家族との交流を深め、1年かけて物件改修の許可を得た。
 並行して、街の課題についてもしっかりと考えた。地元の子育てママの団体の話にも耳を傾け、「空き店舗の増加」「子どもの遊び場がない」「子育てママたちの居場所がない」「木都・能代らしいスポットがない」と課題を4つに整理。交渉中の物件をリノベーションして拠点づくりを行うことで、この4つの課題を解決し、コミュニティの輪を広げながら街ににぎわいを創出しようと決めた。

交流の輪が広がり、挑戦できる好循環を創出

 新たな使命を担うこの物件は、旧店舗の屋号から「マルヒコビルヂング」と名づけられた。国の補助金とクラウドファンディングの活用で資金調達のめども立ち、リノベーションは進む。’21年4月には2階のコワーキングスペースおよびシェアオフィスが、’22年4月には1階の子どもの遊び場併設のカフェがオープン。地下1階には、木工作業用のDIYスペースも整備された。

 2階の部分が早々にオープンした理由について、湊さんは、「この拠点が持続できるようにプランを立てることが重要と考え、まずは確実に収益が見込めるシェアオフィスから手をつけました」と説明する。シェアオフィスの利用者は、前述のプロジェクトを通じて知り合った面々。マルヒコビルヂングの企画段階から入居が決まっていたのだ。コワーキングスペースでは、能代駅前商店会の会議も行われるようになる。

 ’21年10月、シェアオフィス利用者の日常の会話から生まれたアイデアのもと、商店会主催の新たなにぎわい創出の企画が実現した。それが「のしろいち」だ。大通りを歩行者天国に、キッチンカーや、市内の飲食店の屋台、マルシェ、スタンプラリーに、音楽やダンスの催しなどが勢揃いのこのイベントには1万5千人もの人が集まった。以来、年2回の頻度で開催されている。

 翌’22年の「のしろいち」では、マルヒコビルヂング1階スペースで実施された、市主催(のしろ家守舎共催)の創業支援講座「ちいさなシゴトのつくりかた」の受講生もチャレンジショップで出店。出店時に使用したマルシェキットや立て看板は、地下1階のDIYスペースで製作された。マルヒコビルヂングの機能を最大限活かし、商店会とのしろ家守舎、市役所が連携した取組みが実を結んでいるのだ。

「このチャレンジショップは、今後の能代の街の活性化の布石になります。こうした取組みを続けることで、この街で新事業を立ち上げようというプレイヤーが増えていけば」と堀口さん。マルヒコビルヂングができたことで、人がつながり、ビジネスの芽も育つ。さらには、今後の新たな空き店舗活用の動きにも期待が寄せられる。

「地域に交流の場がひとつできると人が増え、ふたつできれば人が往来し、3つできれば人は街を巡ります。能代はまだまだ伸び代がありますよ」と堀口さんは笑顔で言葉を続けた。

’22年10月開催の第3回「のしろいち」の様子。バスケットボールの街・能代らしい催しや、ライブパフォーマンス。「本当に厳しかった状態から街が確実に元気になってきています」と語るのは、商店会で洋装店を営む納谷仁美さん

空き店舗で開催されたチャレンジショップ

’22年12月開催の「第4回のしろいち」では、空き店舗を活用して創業希望者のチャレンジショップとCreerマルシェが開催された。チャレンジショップは、創業支援講座「ちいさなシゴトのつくりかた」の受講生から5名が挑戦。売れる商品やサービスを、実体験を通して学ぶ貴重な場となった


Challenge Shop
オーダーバッグ工房 studio 希

レザークラフト作家・大塚英治さん。県外中心に活動していたが「地域に貢献しながら活動したい」と今春、自宅兼工房を店舗に改装予定

・Challenge Shop・
糸to色

地元の海岸で拾った流木を使いアート作品をつくる加藤 睦さん。「商店街やイベントで販売できる機会が、喜びややりがいになります」

・Challenge Shop・
たけのこ

やさしいタッチのイラストが人気。今回が2回目の出店で、前回の経験を活かし、数や種類を増やして挑戦。「回を重ね、活動の広がりを感じます」


★この記事は、商店街活性化の情報誌「EGAO」の2023 Spring(春号)に掲載されています。
「EGAO」をご覧になりたい方はこちらへ。

商店街活性化の情報誌「EGAO」

一覧はこちら
最上部へ