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活性化事例

旦過市場 現地レポート 二度の大規模火災に遭っても、仲間とともに復旧・復興へ前進!

災害復興

人材育成・組織力強化

商店街名 旦過市場/福岡県北九州市

’22年4月と8月に、二度にわたって大きな火災に見舞われた旦過市場。心無いデマも飛び交い、物理的にも精神的にも厳しい状況に置かれた商店街は、それまで培ってきた組織力と適切な情報発信で、その危機を乗り越えていった。旦過市場の復旧・復興への道のりを、市場内外の、8名のキーパーソンに話を聞いた。(取材は、’22年6月と10月に実施)

たくさんの応援を力に変え、未来へと歩みを進めていく
黒瀬善裕さん旦過市場商店街会長。八幡西区熊手に本店を構える鶏肉専門店「かしわ屋くろせ」3代目代表。旦過市場への出店がきっかけで商店街活動にかかわり、副会長を経て6年前から現職

 私は17年ほど前に旦過市場商店街の副会長に就任しました。その頃は今ほど商店街活動がなく、このままでは衰退してしまうと危機感を持ちました。当時、会長だった森尾さんが「旦過のためにやれることはすべてやる」とすごい気概で牽引してくださり、私はそのお手伝いをして、他の店主も巻き込んでイベントを開催したり、マスコミ取材を受けたりしていきました。悪しき慣習は改善し、いいところは大事に残して、旦過の魅力向上と組織づくりに取り組み、今日に至ります。

 そして今年4月、旦過の未来を担う再整備に向けて体制を整え意気込んでいた矢先に、火災が起きました。小倉中央商業連合会(中商連)がクラウドファンディングを立ち上げて、街中に募金箱を置いてくださいました。そうした資金でがれき撤去を行えたのですが、それがあと3日で終わるタイミングで、8月にまたもや火災。がっくりきましたが、できることをやるしかありません。一度目の火災で必要な動きが頭に入っており、すでに復旧対策会議が組織されていたことから、より迅速な対応ができました。

 8月の火災後は、火元に関するデマが飛び交い、みんなが心を痛めました。そんななか、旦過の本当の姿を伝えようと動画配信を続けたのが広報担当の林さんです。それに加え、4月の教訓から正確な情報を溜めずにマスコミへ提供し続けました。結果、風評被害はかなり抑えられたのではないかと思います。いただいたご支援は義援金だけでなく商品販売やコラボイベントのお誘いなど多岐に渡ります。それらをどのようなかたちでお受けするかを検討し、しかるべき方々に支援が行き渡るよう調整を続けています。

15年かけて市場内外の関係を強化してきたことが一番の地力に。みんなの心を守るため自分たちで正しい情報を発信し続けた


「災害が起こってから動いては遅い」とつくづく感じます。
私たちは普段から定例役員会を開き、話し合いを重ねて活動に汗を流してきました。また、再整備事業で市役所の方と密な連携も図ってきました。中商連の活動にも積極的にかかわっています。日頃から商店街内外でのコミュニケーションを大事にしてきたからこそ、有事の際にすぐ動ける土壌ができていたのです。ご支援を無駄にせず、安全安心で元気な旦過の姿をみなさんに見せることが一番の恩返しだと思っています。次世代を担う若い力とともに復興に向けて歩んで参ります。

デマにも負けない! 市場のリアルを動画配信
林 貴寛さん
旦過市場商店街役員、広報担当。’20年12月にオープンした「燻製処いぶしや」を営むかたわら、市場のPRのために動画配信を継続する
上)カメラを回す林さん。吉永青果店は8月に被災したが、場所を移して元気に営業。そんな頑張る店主の様子を毎日届ける。左下)林さんの店の貼り紙。日々の撮影を通して旦過に詳しくなり“コンシェルジュ”の役割を買って出るまでに。右下)動画配信の機材

 ’21年3月から旦過市場のPRを目的として動画配信をほぼ毎日行ってきました。内容は主に各店舗のその日の商品ラインナップや価格の紹介。撮影を通して店主との交流が深まり、お店の細かな特徴や季節による品ぞろえの変化などにも詳しくなりました。今では「旦過のことは林さんが一番よく知っているね」なんて言っていただきます。

 そんななかで起きた火災。私自身、4月の火災で被災し店の移転を余儀なくされました。多くのマスコミにより被害の様子が報道されました。それも大事なことですが、一方で無事に営業しているお店も多数あります。その姿をしっかり届けることが私の役割だと思い、スマホのカメラで撮り続けました。二度の火災が起こり多くの方に応援していただきましたが、なかにはデマもありました。

 私にできるのは、普段から旦過に身を置くひとりとして、市場をよく見て話を聞き、“本当の旦過の姿”を伝えることです。「動画を見て来たというお客さんが増えたよ」と教えてくださる店主さんもいて、うれしく感じています。ここで働く人たちや市場そのものが魅力的ですから、撮影のネタは尽きません。これからも責任を持って正確な情報を届けて、鮮度の高い情報を発信すること、市場の姿をアーカイブすること、両方の役目を果たしていきます。

地道に取り組んできた組織づくりが、いざという時の底力になった
中尾憲二さん
旦過市場商店街 副会長。旦過総合管理運営株式会社 常務取締役。旦過市場で米とおにぎりの店「米夢マイム」を営む

中尾憲二さん 4月、8月と二度にわたる大規模火災。本当に大変なことでしたが、多くの方にご支援いただき、ここまで復旧できたのは、過去から続く取組みの積み重ねがあったからだと思います。

森尾和則さん 今でこそ全国的に名前を知っていただくようになりましたが、15年ほど前まではそれほど有名ではなく、商店街活動もそこまで活発ではありませんでした。私が会長職を拝命して、やるなら徹底的にやろうと、若い店主たちと市場の改善に挑みました。

中尾さん あの頃、長年、解決は不可能と言われていた「白線問題」がありました。店舗と通路の境界が白線で示されているにもかかわらず、どんどん通路にはみ出して商品を並べ、ついにはお客様がスムーズに通れなくなるほどに。防災の観点からも問題です。消防や警察の協力も得て、一軒ずつ説得して回りました。

森尾さん 店主たちもそれぞれに考えや個性がありますが、丁寧に向き合って話せば理解してもらえるんだとわかりました。それから接客態度の改善、トイレの新設、マスコミ対応の強化などに取り組み、旦過市場の課題解決と魅力向上に努めました。小倉中央商業連合会(中商連)の活動にきちんとかかわるようになったのもこの頃です。地元の大学生たちの活動拠点「大學堂」の設立もありました。

中尾さん そして近年は、旦過をさらに持続可能な市場にしようと、まちづくり会社「旦過総合管理運営株式会社」を設立しました。再整備後には施設管理や新規出店者支援も行う予定です。現在旦過市場には、旦過市場商店街、旦過商業協同組合、小倉中央市場協同組合の3つの組織がありますが、再整備にともない、より一体となって活動を展開するためにこれらをひとつにする予定もあります。

森尾和則さん
旦過総合管理運営株式会社 代表取締役。旦過市場商店街で10年間会長を務めた。旦過市場にも店舗を構える老舗「小倉かまぼこ」会長

森尾さん これまで十数年かけて内部の秩序を整えて、組織づくりに注力し、中商連や商工会議所、市役所など外部との関係も構築してきていたなかで、今回火災が起こりました。

中尾さん 復旧の取組みでは、情報共有が課題でした。先ほど申しましたように旦過市場内だけでも3つの組織があるのに、被災エリアには、隣接する新旦過地区の町内会、魚町グリーンロード協同組合もあります。しかも、会議が組織ごとに行われているのです。そこで、複数の組織が参加できる「旦過地区復旧対策会議」を設け、さらに他の組織の会議への出席や議事録の閲覧もできるルールも定めました。こうした場づくりやルールづくりは、旦過の再整備の際にもきっと活かせます。再整備後の施設には新たなテナントを迎え入れることになりますが、その条件にはまちづくりへの協力という項目も盛り込みました。自分の商売だけでなく地域のにぎわい創出への意欲も持ち合わせた若い経営者が集まることを望んでいます。

森尾さん 旦過市場ではすでに、黒瀬さんや中尾さんをはじめ次世代を牽引する人材が活躍してくれています。これからを担うみなさんには、引き続きいいところはしっかり残しながら新しい人を受け入れ、育てていってほしいと思います。

中尾さん 旦過市場は地域の大切な宝であり文化です。若い人が誇りを持てる存在であり続けたいと思います。

市場事務局が語る再整備・災害・復旧ヒストリー

田中祥隆さん
旦過総合管理運営株式会社常務取締役。1927年創業の鮮魚店の長男として旦過市場で育つ。旦過市場商店街青年部役員として数々の活性化の取組みを実行してきた立役者 が、復旧のヒストリーを語る

2009年、2010年

「九州北部豪雨(’09年)」と豪雨(’10年)により神嶽川から溢水し、旦過市場で浸水被害が発生

建物の西側が神嶽川の上にせり出した構造で、増水時に危険をともなうため、全面的に施設を建て直す再整備事業が計画された

2014年〜’17年

「商店街よろず相談アドバイザー派遣事業」実施

再整備に向けた準備として市場内の3組織が計8回の研修を実施。災害復旧支援とまちづくりを専門とするアドバイザーを招致

2015年〜’17年、’21年

「繁盛店づくり支援事業」実施

再整備を見据え個店力向上のために実施。2組織で計5期、20数店舗参加。見せ方の意識が高まり、メディア映えする市場へ

2022年4月19日未明 出火

4月19日午前9時

緊急会議を開く

旦過市場の役員や市役所の再整備事業担当、災害アドバイザーら約30名が集結。
やるべきことをホワイトボードに書き出して可視化し、次々に対応策を決めていった。「火災対策会議」を発足

同日11時

安否確認完了

人的被害がないことが確認された

同日13時

緊急会議終了

復旧と復興の違いを確かめ、ゼロベースに戻すことを復旧の完了と定めた。10月19日を目途に火災対策会議解散を目標とした

同日

正確な情報を発信

「今日の旦過市場」という動画をYouTubeに日々アップしていた「いぶしや」の林さんが継続して被災した市場の状況を発信

4月20日

警察や消防の協力も得て、初めて現場に入る

4月21日

旦過市場商店街のメンバーで自主的な警備チームを組織し、夜警を含む警備を開始

4月22日

火災を免れた店の一部が開店

4月23日

火災を免れた店の多くが開店。火災を受けたエリアに隣接した通路は自主的な通行規制を実施

4月25日頃

被災エリアに隣接した通路が市により通行止めに

4月26日

小倉中央商業連合会によるクラウドファンディング
「“北九州の台所”旦過市場火災復興プロジェクト」が開始

目標額1千万円に対し、募集期限の5月31日までに計5千6百万円余りの支援が集まった。がれき撤去に充てられる

5月9日頃

仮囲い設置

5月14日

安全が確保され、通路全面開通

5月20日

がれきの対応を目的とした「旦過地区復旧対策会議」を組織

旦過エリアの複数の商店街組織を超えて対応するための対策会議を結成

6月3日、9日、14日

「被災商店街の復興に向けた情報・ノウハウ提供事業」実施

がれき撤去の業者選定、クラウドファンディングや義援金の使途などについて学ぶ

6月24日

「繁盛店づくり支援事業」旦過市場商店街
第4期 1回目 実施

九州マグロ旦過店、吉永青果店、KOKURA堂の3店舗が参加

6月25日頃

がれき撤去のための工事開始

7月22日

「繁盛店づくり支援事業」2回目 実施

複数店舗によるコラボ商品の開発と、9月1日開催予定のイベント「食市祭」での販売を決めて、企画を進めていた

8月10日21時頃 二度目の出火

同日深夜

安否確認完了。怪我人なしと発表

8月11日 午前8時

一度目と同様の緊急会議を開く。前回、半日かかった作業を10時半には終了

同日15時

再集合して市場の状況など情報共有。マスコミに向けた確定情報を発信

4月の火災の経験から、正確な情報をこまめに発信する重要性を学んでいた

8月13日から

旦過市場アプリを通じて営業している店の情報を発信

8月26日

二度目の出火部分の仮囲いとアーケードの安全対策を実施

9月3日

市場内の通路の全面再開通

11月以降(予定)

がれきが撤去され復旧完了。ここから復興がスタート!

元気な姿を見せるのが一番の恩返し。九州工業大学の学生らとのコラボなどにぎわい創出のイベントを計画している


★この記事は、商店街活性化の情報誌「EGAO」の2023 Spring(春号)に掲載されています。
「EGAO」をご覧になりたい方はこちらへ。

商店街活性化の情報誌「EGAO」

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