商店街名 | 南石堂町商店街振興組合/長野県長野市 |
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’22年5月、コロナ禍でイベント開催が難しいなか、南石堂町商店街はデジタル技術を活用し、手づくりの非接触型まち歩きイベント「謎解きで周遊お客様キャンペーン」を成功させた。実現できたのは、地域の大学や高校生の協力があればこそ。ノウハウの蓄積はもちろん、若者との結びつきも強まり、自前のイベント開発はさまざまなメリットを商店街にもたらした。
謎解きデジタルまち歩きのイベント参加店舗のひとつ、マリトッツォ店「Carina」の前で楽しくおしゃべりする県立長野高校クイズ研究会のメンバーは、コンテンツ制作に携わった。イベント開催期間中は、若者やビジネスパーソン、子ども連れに高齢者と、あらゆる年代の人々がスマホ片手い謎解きしながら街を歩いた
JR長野駅の近く、善光寺の表参道にも沿う南石堂町商店街。7年に一度の善光寺の御開帳に合わせて、今春、非接触で楽しめるまち歩きイベントを実施した。その名も「謎解きで周遊お客様キャンペーン」。スマホを使ってQRコードを読み取り、画面に現れる謎を解きながら商店街を巡るというもので、知らなかったお店や景色を発見し、「また来たい!」と思ってもらうのが狙いだ。当初は5月3日から31日までを実施期間に当てていたが、好評につき1カ月間延長。地元メディアにも取り上げられ、多くの人が参加した。
「コロナ禍で大々的なイベントができないなか、善光寺の御開帳がある。これに合わせて、街を盛り上げたい。参加者がひとりでも楽しめて、商店街を知ってもらえるものは何か。そこで着目したのがデジタル技術を活用したまち歩きでした」と話すのは、南石堂町商店街振興組合の活性化委員会委員長・滝口誠さん。このイベントの旗振り役のひとりだ。
しかしそのアイデアを、実際にどうカタチにしていくか。業者に頼めば簡単だが、多額の費用がかかってしまう。そこで、もうひとりの旗振り役、事務局長の宮下佳隆さんはSNSに、このデジタルまち歩きのアイデアをつづり、「どうしたらできるか?」と投稿した。
これに反応したのが、清泉女学院大学の専任講師、榊原直樹さんだ。ユニバーサルデザインを専門とし、地域の課題解決にIT技術を活用する研究に取り組んでいる。宮下さんとは、若者のまちづくりへの参画を支援する活動「シナノ未来プロジェクト」を通じて知り合っていた。
「ちょうど授業でも『デジタル技術を使って街のPRができたらいいね』という話をしていたので、すぐにサンプルのプログラムをつくり、宮下さんたちに見てもらいました」と榊原さん。何気ないSNSの投稿に積極的になったのは、学生たちに地域とつながる機会を与えたかったから。コロナ禍で学生同士の交流がほとんどなかっただけに、今回の企画に参加することでいろいろな人と交流してもらいたいとの願いがあった。
土台のシステムが構築されていくなか、より多くの人に興味をもってまち歩きに参加してもらえるよう、コンテンツには今話題の謎解きクイズを取り入れることに。その制作を担当したのは、県立長野高校クイズ研究会だ。
「今回、宮下さんから声を掛けてもらい、商店街に協力したいと引き受けました」と話すのはメンバーの宮本佐和子さん。実は、3年前に設立されたこの会は高校の非公認サークルのため、校内に活動場所がない。その状況に助け舟を出したのが、南石堂町商店街だ。若い世代にもっと街を知ってもらうことにもつながると、地元の公民館で活動ができるように手配したり、街中で行うクイズイベントをサポートしたり、生徒たちを継続的に応援してきた。それゆえ、今度は自分たちが商店街のためにお手伝いしようと思ったという。
商店街、大学、高校生。三者が一堂に会するキックオフミーティングが実施されたのは’21年12月。実際に顔を合わせて話し合ったことで、宮下さんはさまざまなことに気づいたそうだ。たとえば、当初は街の歴史を知るコースにしようと考えていたが、どうも若者にはピンと来ないらしい。それならば商店街そのものを知ってもらうことにしようと、店舗を業種ごとに3つに分けたコースをつくり、それを巡ってもらうことになった。飲食店のコースではビジネスパーソンがよく訪れる店の他にも、若者に人気のマリトッツォの店を入れるなど、幅広い層に魅力を感じてもらえるような工夫を施した。
こうしてそれほど費用をかけずに、非接触型のまち歩きが実現。コロナ禍でも安全にイベント開催ができることを実証した。加えて、自前で開発したことでノウハウが蓄積され、次のデジタルイベントも開催しやすくなった。だがそれ以上に良かったのは、地元の高校生や大学生が街をより深く知るきっかけとなったこと、さらには商店街とのつながりが強まったことだ。
「こうした取組みを継続すれば、若者の地元への愛着も育まれていくはず。そうなれば、進学や就職でここを離れても、いつかまた戻ってきてくれる可能性も大きくなります。一緒にまちづくりを担ってくれる若者が増える未来を期待しています」 滝口さんと宮下さんはそう口をそろえた。
★この記事は、商店街活性化の情報誌「EGAO」の2022 Autumn(秋号)に掲載されています。
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