特集 | 広報「EGAO 2017 Spring」座談会 |
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元気な商店街には、必ず個性豊かな繁盛店がある——。
そんな繁盛店づくりに取り組む店主のみなさんに、
個店の魅力向上と商店街活性化の関係についてお話を伺った。
Profile
田中祥隆さん
旦過市場商店街 青年部役員
福岡県北九州市の旦過市場商店街青年部役員。同商店街にて鮮魚店「かじはら」のほか、定食店「たんが食堂 空」を営む。市場を盛り上げる様々なイベントを企画運営する
杉浦文子さん
岡崎まちゼミの会 世話人
愛知県岡崎市で創業80年超の「スギウラメガネ」店長。「岡崎まちゼミの会」世話人として、同地にまちゼミを広め、現在は繁盛店づくり支援事業にも注力している
辻卓也さん
花火通り商店街 副会長
総合商社勤務後、’09年に帰郷し老舗和菓子店「つじや」の五代目を継ぐ。花火通り商店街副会長、大曲商工会議所青年部理事として同地の活性化に取り組む
桑島俊彦
全国商店街支援センター
株式会社 全国商店街支援センター代表取締役社長。全国商店街振興組合連合会 理事・最高顧問、東京都商店街振興組合連合会 理事長など要職を歴任。その傍ら、世田谷で化粧品店を営む
桑島 元気な商店街を見てみると、共通するキーワードがあるように思えます。ひとつは、「地域をまとめられるリーダー」。そして、特に近年大事なのは「集客力の高い個店」です。その重要性を鑑みて、全国商店街支援センターでは、アドバイザー(講師)を派遣して個店の魅力向上につなげていただく「繁盛店づくり支援事業」を実施しています。みなさんには店主としてこの事業を活用いただいていますが、そこにはどのような問題意識があったのでしょうか?
辻 私が和菓子店を営んでいる秋田県大仙市の花火通り商店街は、その名の通り花火大会が有名で、毎年約80万人の集客があるんです。ただ、こうしたイベントは限定的な効果にとどまり、毎日のにぎわいにはつながっていない現状がありました。すべて花火頼みになっていることが問題なので、商店街の本分に立ち返り、「普段の商いを大事にして、個店を徹底的に強くしていこう」と考えたのです。イベントでの集客と個店の魅力アップによるにぎわいの両輪で、商店街を活性化させていくことが目的です。
杉浦 私は愛知県岡崎市の康生通りの商店街で、メガネ店を営んでいます。もともとここは三河中から買い物客が集まってくるようなエリアでしたが、地方都市の例に漏れず、郊外に大きなショッピングセンターができたことで、徐々に活気が失われていきました。そうした背景から、新しい取組みとして’03年に「まちゼミ」をスタート。新規顧客の開拓などの数字的な成果に加え、店主のモチベーションが上がり、横のつながりが強化されました。そこで次のステップとして、個店の魅力向上に取り組んでいます。
田中 私たちの旦過市場商店街は、少し事情が異なるかもしれません。九州の玄関口・小倉にある生鮮食品に特化した市場で、レトロなアーケード街に、所狭しと魚、肉、野菜などの生鮮店が180店鋪ほど軒を連ねています。この前、女子高生がこの街を「映画のコクリコ坂みたい」と話していましたが(笑)、その独特の街並みからメディアにも取り上げられ、にぎわいもある市場だと自負しています。ただ、ここ数年は他地域から来た若い店主が増え、市場の一体感といった面では若干の不安がありました。そこで、みんなが勉強でき、連帯感も生まれるのではないかと、繁盛店づくりに申し込んだのです。
桑島 三者三様、それぞれに事情は異なりますが、商店街や地域に目をむけていらっしゃるのは共通していますね。実際に取り組んでみての感想はいかがですか?
杉浦 私個人のお店で言うならば、たとえばディスプレイひとつでも、ただ並べるのではなくグループでまとめて視覚的な変化をつけたり、機能や価格帯によってPOPの色を変えたりと、コストがかからずすぐにできるお店づくりの方法をご指導いただきました。私たちはまだ始めて一年目なので、目に見える効果はこれからだと思いますが、お店のスタッフもやる気が出て前向きな気持ちになり、かなり期待しています。
辻 私も、いろいろな面で〝気づき〞がありましたね。私の店では、もともと商品は贈答用の2〜3000円の価格帯が中心でした。ところが、アドバイザーの方に500〜1000円のラインナップを勧められまして、最初は半信半疑だったのですが(笑)、実行してみたところ人気商品に。今ではキオスクやサービスエリアで販売されるまでになりました。杉浦さん同様、大規模な投資でなく、「まずやれることをやる」というアドバイスは大変勉強になりましたね。もうひとつは、個店だけでない、商店街全体への波及効果です。うちの商店街では、一店に指導が入る場合、チームである5店の人間が他店へも一緒について回り、ともに学びました。その結果、参加店主の絆がとても深まりまして。店舗同士が商品のコラボをし始めたり、お互いの商品を置きあったりするようになり、胸を張って「あの店はいいよ」とお客様に紹介しあえる仲になりました。繁盛店づくりがきっかけで、確実に個店の魅力向上が地域活性化につながっています。
杉浦 広がりがあるのはいいですね!私たちも他のお店が「何をやっているの?」と気になるような成果を出すことで、どんどん他のお店を巻き込んでいきたいです。
辻 商店街の中だけでなく、講師の方を通して、別の街との交流も生まれますよ。実際、私は石川県の千代尼通り商店街や新潟県の上古町商店街へ伺って、情報交換や問題解決のヒントをいただいています。
田中 旦過市場では、私が参加店を募りました。声をかける基準は、ものすごく売れそうな商品があるのにディスプレイが雑だったり、売り方が古かったりなど、「もったいないお店」(笑)。私自身も昔ながらの魚屋を営んでいますが、それに加えて定食屋も始めました。「魚屋さんが作るまかない食堂」として。それが正解かは別として、「売る自信と結果」をマッチングする仕掛けをみんなに学んでもらいたかったんです。
杉浦 その結果はどうだったんですか?
田中 実に素晴らしくて、たとえば非常に熱意のある老舗のかまぼこ屋さんは、受講後に売り出した新しいかまぼこが当たって、売上は倍以上。さらに、洋菓子店はなんと前年比80%アップです。
桑島 それはすごい! 繁盛店づくり支援事業は、平均で前年比20%増に近い実績をあげているんですが、80%とは……。
田中 「寝る暇もないけど、楽しくて仕方がない」と言っていました(笑)。繁盛店づくり支援事業は継続的に取り組めるのもありがたい。単年度で結果が出ず、時間がかかるときもあるわけですから。
桑島 みなさんは個店の魅力向上に尽力されていますが、そこで次に大切になるのが「発信力」ではないでしょうか。いくらいいお店があっても、知ってもらえなければ意味がないわけですから。その点では、商店街なり組織がイベントやPRを通して、個店にスポットライトを当てることも重要だと思います。
杉浦 私たちは昨秋の「あいちトリエンナーレ2016」開催期間に、クーポン付きのフリーペーパーを発行しました。市外から来てくれる方も多いイベントなので、観光施設にも置いていただいたところ、若い子たちがそれを持って街を歩き、掲載店舗に足を運んでくれたんです。そこで「また来たい」と感じていただける店づくりが重要になると思いますが、訪問のきっかけとしてこれを定期的に発行していきたいと考えています。
辻 私たちもいままではチラシ配布程度だったんですが、県庁のプレスルームでリリースしたところ、地元新聞に「花火通り商店街」や「大曲」という文字のある記事が非常に増えたんです。すると効果が確実にあって、地元のお客様が「最近がんばっているね」と声をかけてくれるようになりました。県庁の方曰く「商店街が利用したのは初めてだ」とのことでしたが、もっと早く活用すべきでした。
田中 旦過市場は店舗数が多いこともあり、商店街が良質な情報を取りまとめることが必要だと感じています。「まずはこの店のこれを食べてみよう」と。それぞれのお店に任せると、商品がバッティングするリスクもあるので、そこは組織側が選定して。
桑島 世田谷区の商店街では、最近「街バル」というイベントが盛んです。お得なチケットを購入し、行ったことのない飲食店をたくさん訪れる。それが次につながっていく。繁盛店づくりのきっかけは、商店街がお膳立てしていくべきですね。
辻 それと、ファンづくりは本当に大事ですよね。実は、うちの商店街のマップを作ってくれたデザイナーさんがいるんですけど、彼がその制作の過程で商店街の人々に魅せられちゃって。自費出版で商店街の写真集を出したんですよ(P 28参照)。そうしたら、売れに売れてもう完売寸前。市外の方が写真集片手に街に来るようになりました。そこでお店は、「ここに行ったらあの商品がおすすめですよ」と別のお店の情報も伝える。店舗同士がスクラムを組んで、お客様を紹介し合うことで、商店街全体の活性化にもつながるはずです。田中 市外まで良い評判が広がると、商店街に出店したいという若手も出てきますよね。それが空き店舗を減らすチャンスになる。大切なのは、新規出店に際して、商店街が行政とのやり取りなどをサポートしてあげることですね。
桑島 東京の商店街には、最近チェーン店が増えています。一見、にぎわっているように思えますが、これは事実上の空洞化なんです。なぜなら、それは値段の競争になるから。本来、商店街にある個店は、値段だけではないサービスの部分で勝負しているはずです。
田中 わかります。繁盛店づくりに取り組んでいる時も、「私たちは商売人じゃなくて、職人なんだ」という話が出ました。つまり、店に並んだ商品を熟知しており、その良さをしっかりと説明できる。だから、この値段なんだと。そういう話を聞いていると、お客様も勧められることが楽しみになるんだと思います。
杉浦 それって、まちゼミの発想の根幹でもありますよね。お客様に商品を説明するとき、私たちは当然と思っていることが「そうだったんだ!」という驚きになる。プロの知識やセンスを、お客様にわかりやすく届けることが必要だと感じています。
辻 お客様から認められると、自分の店や商品についての誇りにつながります。やっぱり、〝誇り〞って商売するうえではとても大切。その意味ではハード面をブラッシュアップする繁盛店づくりと、ソフト面を高めるまちゼミは親和性が高く、お互いに補完しあっていて相乗効果が高いんですよね。それと、やはりマニュアル化できない触れ合いも商店街ならではの体験ではないでしょうか。
田中 同感です。たとえば旦過市場の店には丸椅子が一脚置いてあって、そこにお客様が座って「あれはどこで売ってる?」といった買い物の相談から愚痴まで(笑)、さまざまなお話をしていきます。常連さんは時に店番をやってくれたり、店との距離感が非常に近い。それは個人の店や商店街ならではの情景だと思います。そして、そんな常連の高齢者の方々が3日も来ないと「大丈夫かな?」と。そんな見守り機能も商店街にはありますよね。そこに「利便性」や「安さ」だけで判断しないお客様が生まれるんだと思います。
杉浦 お話を伺っていて、繁盛店とはただ単に「モノ」が売れるだけではない、「コト」の貢献も大きいのでは、と思いました。私は、やはりお客様に「困ったときには頼っていただけるお店」でありたい。みなさんはいかがですか?
辻 市民全員に知られていて、こちらも市民全員を知っている。みんなが知り合いという状態が理想です。「あそこに行けば誰かに会える」という場所で、しかもその〝誰か〞が、親子三代までの幅を持っていること。
田中 私は祖父から、「地元の名士であれ」と言われていました。そのためには、繁盛店であり、地域一番店であり、なによりも地域貢献をしていることが必要だと思います。
桑島 地域社会から愛され、評価される店は、商店街の誇りにもつながる。そんな店が100店のうちの数店でもあれば、街ににぎわいが生まれます。かつては、個店の繁栄は商店街の〝街力〞に左右されていました。しかし、時代は変わりました。今は、街力を高めるために、個店の魅力が不可欠だと再認識しました。今日は含蓄のあるお話をありがとうございました