特集 | 広報「EGAO 2017 Autumn」インタビュー |
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商店街の活性化を測る上で、何が指標になるのか。そして、取組みが成功する商店街の共通点とは何か。
日本経済研究所の大西達也さんに聞いた。
一般財団法人 日本経済研究所
常務理事 地域創造業務統括
兼 地域未来研究センター長 兼 調査局長
大西達也さん
日本政策投資銀行を経て、
2017年より(一財)日本経済研究所。'17年より現職。
地域振興等を専門に、全国を訪れながら地域づくり・まちづくりの調査研究に取り組む
自分たちの商店街をなんとか活性化させたい——。多くの商店街がそう願いながら日々試行錯誤を続けている。では、そもそも「活性化」とはどういう状態を指すのか。「商店街の活性化の指標は、ずばり、人が集まってきているかどうかです」 日本経済研究所の大西達也さんはそう言い切る。「今の日本で日常的に多くの人通りがある場所をつくることは容易ではないでしょう。それよりも、年に数回のイベントでも人がたくさん集まること、そしてそのイベントを5年10年続けていく持続力が重要です」 では、集客イベントを持続させていくためには何が必要なのだろうか。「補助金に頼らない自主財源をもつこと。そして、組織の新陳代謝を促すことが、何より大切です。商店街に若い人や、ほかの地域の人を受け入れる姿勢があるかどうかがカギですね」 健康的な新陳代謝が生まれている商店街として大西さんが挙げるのが静岡県浜松市の「ゆりの木通り商店街」(P10〜13で紹介)だ。年2回行われるバザールは誰でも参加が可能で、セミプロの手づくり作家に人気だ。「商店街に古くから関わっている人と、新しくやってくる人がゆるやかに結びつきイベントを実行している好例だと思います。商店街もただ場所を貸すのではなく、顔を合わせて一緒にバザールを行うことで関係性が生まれ、それが実際の商店街への新規出店へとつながる可能性もあります」
このような動きは長い目で見て商店街の担い手の世代交代につながっていく。そして新規出店者のサポートも、商店街の大きな役割だ。ともに繁盛店づくり事業などに取り組み、実践的に店舗運営をサポートする手もあれば、「気にかけ、見守り、時にお互いの店のお客さんになるだけでも十分です」と大西さんは話す。
「ゆりの木通り商店街」のバザールの様子
「商店街を運営するにはリーダーが必須です。しかし、理想のリーダー像は従来の『俺についてこい!』という一人で引っ張っていくタイプから、みんなを巻き込んでその気にさせるタイプに変わってきているように感じます」 商店街の一店舗あたりの規模が縮小し、従業員数も減少傾向にある今日、店主が商店街の活動に十分な時間を確保するのは難しく、一人が街のリーダー役を担うのは負担が大きすぎる。必然的に、〝皆を巻き込む〞タイプのリーダーが増えてきている。大西さんは次のように提案する。「リーダーの役割を何人かでシェアするのが得策です。そもそも商店街は、扱う商品もサービスもさまざま。何人かで話し合って客層を分析し指針を決めるほうが時代の変化に柔軟に対応できるはず。絶対的な存在がいないからこそ生まれる動きもあります。次世代のリーダーに求められるのは、みんなから『これやりたい!』というアイデアを引き出し、その熱意を支え、任せ、見守る能力だと思います」 では、次世代のリーダーはどのようにして生まれるのか。商人塾のように、商店街関係者が集い、ともに学びながらリーダーとしての資質を磨くのが王道だが、イベントを実施しながらリーダーを発掘・育成していくという方法もある。たとえば、大西さんが17年前からほぼ毎年足を運んでいるという長崎県佐世保市の四ヶ町商店街では、イベントごとに実行委員会を設置。商店街関係者だけではなく、学生やさまざまな立場の人が参加している。「多様な人が集まる実行委員会形式にすることで、商店街の外の情報や意見も入ってきます。さらに、イベントをきっかけに新しい人が自然と商店街に足を運び関心を持つようになる。そういう人のなかから将来のリーダーが生まれる可能性も大きいのではないでしょうか」
新陳代謝にリーダーと、商店街には「新しい風」が必要と語る大西さん。ただ、それだけでは足りない部分があるという。それが、商店街活動の方向性を示すための「ビジョンの策定と共有」だ。「まず、商店街としてのビジョンをみんなで一緒に考えて、目標を共有することが大切です。イベントを実施するにしても、ビジョンもなくただやるだけでは次の活動にはつながっていきません。たとえば、私が5年前からまちづくりに関わっている北九州市黒崎地区では、商店街関係者や地域住民、地元企業職員が勉強会を通じて、自らの手でまちづくりビジョンをまとめています」
ビジョン策定には、支援センターのトータルプラン作成支援事業などを活用するのも一案だ。 そして現在、大西さんは商店街の集客イベントによる「面の創出」に期待を寄せている。「今、商店街の店舗は地理的にもつながり的にも〝点〞として孤立しがちです。かつて商店街には店が建ち並ぶエリア——〝面〞があった。その面をもう一度つくるのがまちづくりだと思うのです。
そして、面の範囲を示す補助線となるのがイベントであり、その重要なコンテンツが街の歴史ではないでしょうか。歴史は忘れてはならない商店街の強みのひとつです」
歴史がその街ならではの特性を生み出し、商品や街自体の価値も高めると大西さんは考える。その点では、歴史はビジョンの土台となるものだ。「イベントを行っても、それが直接商店街の利益に結びつくとは限らないですし、ビジョンづくりも人材育成も、すぐに成果が目に見えるものではありません。しかし、商店街を活性化させるために大切なのは、そうした目に見えないソフト面の種をまき続けることなのでは」
できることからでいい。人づくりもまちづくりも、長い目で見て継続することが、活性化につながりそうだ。
活性化事例 空き店舗が新しい価値を生む。人をつなげて街を変えていく(※文中で紹介のゆりの木通り商店街の取組み)
★この記事は、商店街活性化の情報誌「EGAO」の2017 Autumn(秋号)に掲載されています。
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