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活性化事例

商店街ならではの魅力発信ってなんだろう?

地域振興

個店活性

特集 広報「EGAO 2018 Spring」対談

商店街の魅力を、どのように伝えるべきか ——。
くまモンの生みの親で、放送作家や脚本家として
多くの人に感動を伝えている小山薫堂さんに、
全国商店街支援センターの桑島俊彦が、
商店街だからこそできる発信について伺った。

Profile

小山薫堂さん(左)
株式会社オレンジ・アンド・パートナーズ代表取締役社長。
放送作家、脚本家、作詞家、地域・企業のアドバイザーなど幅広い活動を行っている。大人気のキャラクター「くまモン」の生みの親。

桑島俊彦(右)
株式会社 全国商店街支援センター 代表取締役社長。
全国商店街振興組合連合会 理事・最高顧問、東京都商店街振興組合連合会 理事長などを歴任。世田谷で化粧品店を営む店主でもある。

人が発信したくなるような“物語”を商店街につくる

桑島 まず、小山さんは商店街にどんな印象をお持ちですか?

小山 僕は熊本県の天草出身で、家からすぐのところに商店街がありました。まるでもうひとつの学校のグラウンドのようにそこで遊んでいて、スケートボードをしては、怒られていました(笑)。当時、商店街のおじさんおばさんは子どもを怒ってくれるもうひとりの先生だったんです。そんな思い出もあるので、愛着があって大好きな場所です。天草も今はシャッター商店街なのですが……。

桑島 近年、都心と地方とでは益々格差が出てきて、特に地方ではシャッター商店街が増え続けています。しかし、少子高齢化の時代に、多世代が交わるコミュニティの場となる商店街は重要な存在です。そこでそれを起点としてなんとか地方を活性化できないかと、我々は模索してきました。ただ、多くの商店街は魅力があっても自分たちの活動を外に伝える発信力がなく、人が来ない。これが活性化のネックだと私は感じています。商店街は、どうしたら発信力を持てるとお考えですか?

小山 〝発信したいと躍起になっている人の情報を人は欲しいとは思わない〞のではないでしょうか。たとえば、好きな女性に対して自分がいかに魅力的な人間かということをせっせとアピールする……そんな人は果たして彼女に魅力的に映るのでしょうか。自らは発信せずに、自分の魅力に他人が気付く仕掛けをつくること。つまり、「発信」するのではなく、「発見」してもらうことが重要なのではないかと思います。

桑島 
そうはいっても、まずは最初に興味をもってもらうための発信も必要なのではないですか?

小山 ひと昔前はそうだったかもしれません。でも今は誰かひとりに見つけてもらえれば、SNSなどで全国に広がります。「広く浅く」ではなく、「小さく深く」届けること。そのために、僕が一番大切だと思うのは〝物語づくり〞です。たとえば、以前墨田区のキラキラ橘商店街にあった『ハト屋パン店』という人気のコッペパン屋さん。コッペパン一個を百円ちょっとで販売していたお店で、お母さんに注文すると、お父さんがパンを切ってジャムを塗り、娘さんが会計をする。たった一個を売るのに3人で働くのは、今の時代、非効率的と言えるかもしれません。でも、そこが面白くて、「こういう店があるんだ」と人に語りたくなるんです。そういう、人に語りたくなる物語を商店街の中に見出すことが大切です。

桑島 そうして、口コミで広がっていくわけですね。

小山 そうです。物語づくりはお金のかかることではなくて、店主の方たちが、「自分たちは物語をつくりながら商いをしているんだ」と意識することで始まります。昔はよく、会計の時に「はい、200万円」とおつりを渡す八百屋さんとかありましたよね(笑)。いま、それをあえてやるのも物語づくりです。いまどきこんなことするお店があるんだと誰かが見つけて、街の名物になるかもしれない。もしかしたら無駄打ちに終わるかもしれないけれど、商店街みんなでそのような意識改革をやることで、まず活気が出てくると思うんです。

すでにある価値に気付き幸福度を上げる

桑島 最近、街なか観光という取組みが広がっています。商店街の日常を観光として楽しんでもらおうという、これも発信の試みです。この点についてはいかがお考えですか?

小山 十分な意義があると思います。その街の観光が輝くのは、本来観光に携わっていない人たちが自分の街の観光に興味を持ちだした時なのではないでしょうか。僕は、旅先で髪の毛を切ってもらうのが好きなんですが、美容師だったら髪を切る小一時間を、街のいいところをお客さんに伝える時間にすることもできますよね。たとえば、観光客が入りやすいように看板を立てて、美容師さん自身が意識を転換して観光客と話すようにするだけで、その街のことを発信できるんです。そうすると、まず美容師さん自身が話すネタを仕込もうと商店街を改めて意識しだすのではないでしょうか。

桑島 意識改革ですね。自分の街の面白い部分を発見しよう、という姿勢になる。

小山 そうすると、自分はこんな面白い街に住んでいたんだと幸せな発見ができる。これはどの業種でも応用可能な発想です。観光を盛り上げるために新メニューをつくるとかではなくて、もっと日常にある面白さを拾いあげれば、きっとそれを誰かが見つけてくれると思います。くまモンをつくった時も同様の考えでした。通常、観光予算を観光産業のために使うとなると、ウェブやパンフレットに考えが向きがちです。でも本当にそれでいいのかな、と。まずは観光そのものではなく、地域の人がここに暮らして良かったと思うことを見つけるキャンペーンをやるほうがいいと思ったんです。そこで、手始めに「熊本サプライズアワード」を実施しました。びっくりするほど水がおいしいとか、そういう他県から来た人たちが驚く熊本のいいところと、発想の転換ですぐ取り組める、観光客を楽しませるアイデアを募集したんです。そういう取組みの応援団長としてくまモンをつくりました。

「日常の中に、気付いていないストーリーがある」(小山)

桑島 どういうアイデアが集まりましたか?

小山 
「うちの小学校は、街ですれちがった人全員に挨拶をします!」というのもありました。もし自分が旅先で小学生に次々挨拶されたら、いまどき珍しい街だとびっくりしますよね(笑)。また、県民がくまモンに今日あった幸せなことを報告するアプリもつくりました。報告内容は、「今日は洗濯をしたら快晴で気持ち良かったよ」とか、「市電に乗ったらちょうど席が空いていたよ」とか、本当に身近なことでいいんです。自分たちの身の回りの幸せを自覚することで県の幸福度が上がります。商店街もこれに近い方法で盛り上げることができるのではないでしょうか。いままでの常識をリセットして商店街を見直せば、熊本の人が改めて熊本の水のおいしさに気が付いたように、すでに自分たちが無意識に持っている価値に気が付くことができます。 

桑島 確かに、商店街活性化となると、新しい価値の創造に力を注ぎがちですね。それもいいことではあるけれども、まずはすでにある価値に目を向けてそれをどう磨けば輝くようになるのか、と考えることもとても大切ということですね。

「目利きのプロ」が人気。商店主はいまこそ原点に

桑島 ところで、パン屋さんやお菓子屋さんのように、いわゆる自分たちでつくって売る「ショップ型」の個店は、商品にお店独自のアイデアを載せやすく、小山さんの言う「物語」をつくりやすいかと思うのですが、商品を仕入れて売っている「ストア型」についてはどうでしょうか?「ストア型」は、価格競争でチェーン店に押されている現状にあります。

小山 大切なのは、店主の〝目利き〞なのではないでしょうか。街の個店は、要はセレクトショップなんです。多くのストア型店舗はその使命を忘れていると思います。京都の古川町商店街にある『阪本商店』というお店は、まさに目利きによるセレクトショップです。一見どこの商店街にもあるよろずや風の商店ですが、ここが素晴しい。阪本商店は、一品ずつ命をかけて棚に並べる商品を選んでいるんですよ。七味ひとつとっても、何種類か置いていて、どこでも売っているような大手メーカーの商品も含めて、いろいろ試して「やっぱりこれ!」というモノを置いているんです。

桑島 目利きこそがプロの技ですね。

小山 
お店に行った時、「今日まだ何を食べるか決めていないんですけど、ここでまず何を買うべきですか」と聞いてみたことがあります。すると店主がすかさず、「このゴマ豆腐はすっごく美味しいんですよ!」と即答してくれた(笑)。そうなるとじゃあ今日はそのゴマ豆腐を軸にして献立をたてようとなりますよね。ひとつずつをちゃんと自分で愛をもって選んで販売している。置いている商品をすべて自分で把握し、使い方まで考え、自信を持っておすすめする。無駄なものは一切置いていない。そういう店だからこそお客はもう一度行こうと思えるのではないでしょうか。

桑島 自分の目に自信をもって扱う商品を選ぶ、おすすめするというのは、本来の商店の姿ですね。ただ漫然と棚を埋めるのではなく、商品一つひとつに「これがいい」という理由を持っているから、強気におすすめもできる。そこからコミュニケーションも生まれる。

「商店街の価値を再発見して意識を変えていく」(桑島)

小山 そうですね。たとえば、「ポン酢ありますか?」とお客さんに聞かれた時、「そっちの棚にあるよ」と答えるだけではなにも生まれません。でも、そういう時、阪本商店だったら「実は、今日とびきり良い豚肉が入っていて、それには、このゴマダレがぴったりなんですよ」と他の提案をします。そうすると、その時はポン酢を買うかもしれないけれど、またお店に来て、豚肉とゴマダレを買おうとなるわけです。

桑島 ただモノを売るだけではなく、お客さんの暮らしの質を高められるような話ができる店主や店員がいる。そういう専門性をもつとお店はキラリと光り輝くんですよね。私は、商店街が活性化するためには、キラリと光る個店づくりが非常に大切だと考えています。個々のお店の魅力がアップすれば、多くのお客様の心をつかむことができ、商店街が元気になります。私ども全国商店街支援センターは、アドバイザーを商店街に派遣して、お金をかけずにできるお店の魅力アップのポイントを示し、そのノウハウを商店街全体で共有してもらうという「繁盛店づくり支援事業」と、店主がプロの知識・ノウハウをお客さんに伝えることで、お客さんの暮らしを豊かにするイベント「まちゼミ」を後押しする「まちゼミ研修事業」を行っているのですが、これらが目指しているのが、阪本商店のようなお店を増やすことです。多くの店主の方に、気の持ちようでこういうお店になれるんだということを知ってもらいたい。プロとしての気概を思い出し、商店の原点に立ち返ってもらいたいと思います。

商店街をつくったという責任を忘れない

小山 最近寂れてしまった商店街が多いのですが、僕が商店街に対して思う一番のことは、そこに商店街をつくったという責任を忘れないでほしい、ということです。以前、とある商店街の再生プロジェクトの手伝いをしてほしいと言われた時、かつてその商店街で商いをしていた店主の多くが、自分たちは高齢になったので静かに暮らしたい、もう人は来ないでほしいと言うのです。自分たちは店の2階に住んでいるし、お金はあるので下は空いたままでいい。再生してくれるな、と。

「生活の場としての商店街の重要性を再認識してほしい」(小山)

桑島 そういう方は確かに結構いらして、実際、それが空き店舗対策のネックになっています。

小山 商店街でにぎわいをつくって、それで生計をたてた方々は、商店街をつくった責任があると思います。店舗は若い人に貸すか、自分たちで起業してもらうか、どちらかだと思います。自分たちが年をとったからここはもうだめ、貸しもしないという考えは改めたほうがいいのではないかと思います。僕が子どものころ恩恵にあずかっていた、地域の一員、みんなの生活の場としての商店街の姿を思い出してほしいなと思います。

桑島 
それも、自分たちがすでにもっている価値を見直すことの先にある意識の改革ですね。本日はありがとうございました。

【COLUMN】小山さんが取り組む 丸い鯛焼きの価値創出

「およげ!たいやきくん』の歌が大流行している時、地元商店街にある「まるきん製菓」へ鯛焼きを買いに行ったという少年時代の小山さん。しかし、その鯛焼きは尻尾がなく、今川焼のように丸い形をしていて、流行っている鯛焼きとはまるで別物。

「天草は田舎だから形が違うんだ……」とショックを受けたという。「はじめて感じた田舎コンプレックス(笑)」だったが、東京で暮らし始めて、その形が他にはないオンリーワンの価値だったと気が付いた。

そして’17年、高齢になり経営が難しくなったと店主から知らせが。それを聞いた時、若かりし頃の自分も含め、地元の子どもたちのオアシスのような存在だったこの店をなくしたくない、と強く思った小山さんは「自分にまかせてもらえませんか」という言葉が思わず口を突いて出たという。彼の想いに、地元の友人が職を投げうってまで協力体制を整える。こうして「まるきん製菓」の再生プロジェクトが始動した。

もともとある「丸い鯛焼き」という価値を保ちながら、生地とクリームは神戸の人気パティシエから、あんこは老舗和菓子屋からレシピを提供してもらい、味をさらに向上。また、地元の高校生との連携も復活のアイデアとして盛り込んだ。

「廃業寸前の鯛焼き屋が多くの熱い想いとともに復活」というこの“物語”は、地元メディアに注目され、取材が殺到。「まるきん」としてリニューアルオープンした当日は、多くの人が足を運び、商店街には何十年ぶりの行列ができた。開店から1カ月たっても、1個150円の鯛焼きは1日1000個も売れているという「まるきん」。価値を保ちつつ、よりおいしく、さらには地元の中高生が学校帰りに立ち寄りやすい場所を意識的に目指したことで、新しいコミュニティの場としても機能している。

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