商店街名 | 泉町二丁目商店街振興組合/茨城県水戸市 |
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ファーマーズマーケットやバルイベントなど、水戸の街を食で盛り上げる取組みの中心を担ってきた泉町二丁目商店街。’16年からは地域食堂「310(サンイチマル)食堂」もスタート。食の支援のみならず、コミュニティの将来像までも視野に入れたこのプロジェクトとは――?
毎月第3土曜、商店街にあるコミュニティスペース「マチノイズミ」で開催される地域食堂「310食堂」。それは、小さなきっかけから始まった。泉町二丁目商店街振興組合の理事長・高野健治さんがテレビで子ども食堂の存在を知り、「うちの商店街でもやってみない?」と提案したのだという。その後、商店街内部から「高齢者の孤食も増えているよね」という意見が出て、「それなら子どもから高齢者まで、誰でも利用できる地域食堂にしよう」とコンセプトが固まったそうだ。
同振興組合の副理事長・秋山道さんは、この310食堂に〝地域コミュニティ活性化〟への期待も込めているという。「地域の人とのつながりを深めるには、みんなで飲んだり食べたりしながらコミュニケーションをとるのが一番手っ取り早い。310食堂は、まさにそれができるプロジェクトなんです」
コロナ禍の現在はテイクアウト限定だが、本来の310食堂はさまざまな世代の人が集い、一緒に食事を楽しむのが基本。そこから小さなコミュニティが生まれ、やがて広がり、「いつか、街全体が大家族のようになるのが理想」と秋山さんは続ける。「家族のようなコミュニティが身近にあれば暮らしやすくなり、水戸に住もうと思う人が増え、最終的に街や商店街の活性化にもつながると思うんです」
310食堂の実質的な運営を担ってきた秋山さんには、心強い仲間がいる。NPO法人セカンドリーグ茨城の理事長・横須賀聡子さんだ。食に知見の深い横須賀さんは、商店街で地域食堂を行う意義についてこう話す。
「最近は核家族化が進み、孤食も増えていますが、〝みんなでつくって、みんなで食べる〞ことは食文化の継承や食育にもつながるので、それを身近な商店街で体験できるのはいいですよね」 実際、子どもたちの食育の一助にもなっているようで、もともと食事を食べに来ていた小学生が、やがて食に興味を持ち、自発的に調理の手伝いをするようになった例もあるという。
ところで、310食堂の収支はどのようになっているのだろうか。大人300円、子どもには無料で食事を提供するにあたって、食材費や人件費を大幅に抑える必要があるはずだ。
食材に関しては、セカンドリーグ茨城の母体であるパルシステムが、農家や直売所に声を掛けて集め、安定的に無償提供してくれているという。加えて、商店街が中心となって今まで実施してきた食イベントのつながりから、食材を提供してくれる協力者も多いそうだ。なお、余った食材はフードパントリー(困窮世帯に食品などを配る活動)に回すなどして、フードロスを出さない工夫もしている。
人件費に関しては、ボランティアを募ることで解決。横須賀さんのネットワークなどでボランティアの調理スタッフを確保できており、毎回4〜5人程度が参加してくれるという。
月1回、5年間にわたって継続してきた310食堂は、今では認知度も高まり、多い時は50名ほどの利用者があることも。秋山さんと横須賀さんは、「今後も310食堂を続け、地域食堂・子ども食堂を水戸全体に広めたい」と口をそろえる。
その兆しはすでにあり、マチノイズミの近くにある「カフェリベル」と「食と農のギャラリー葵」が、独自メニューで310食堂を同時開催している(葵はコロナ禍で一時的に休止中)。他地域でも、310食堂に触発されて地域食堂・子ども食堂が派生中。現在、市内9カ所で開催されているという。
310食堂の拠点であるマチノイズミは、週2日(コロナ禍の現在は週1日)、中高生向けの無料学習室「StudyRoom310」へと変身する。「食の支援だけでなく、勉強場所がない子どもたちの学習支援をしてはどうだろうか」という、食堂ボランティアの声からスタートしたプロジェクトだ。
学習室といっても堅苦しいものではなく、〝中高生の放課後の居場所づくり〞の意味合いが強い。秋山さんや横須賀さんも、「ただ気軽にここに来て、おしゃべりするだけでもいい」と話すが、実際は自主的に勉強している中高生が目立つという。「自宅でひとりきりで勉強するよりも、誰かと一緒のほうが刺激になってはかどる」という声も多いそうだ。
StudyRoom310の開催日には、中高生の見守り役として大学生もやってくる。今は感染予防の観点から控えているが、コロナ禍以前は地元の茨城大学に通う学生たちが積極的に顔を出し、自習に励む中高生をそっと見守り、時には相談に乗ったりしながら、心地良いコミュニティを築いていたようだ。
310食堂もStudyRoom310も、地域コミュニティの絆を強く太くしている。コロナ禍の今、規模は縮小されながらも着実に継続されているこの取組みの先に、秋山さんたちのめざす未来、〝街全体を大家族に〞がしっかりと見えている。
水戸駅近くの「カフェ リベル」は、「310食堂・カレー部」として活動。オーナーは当初、マチノイズミでの310食堂にボランティア参加していたが、「自分でカフェを開き同じ取組みをしよう」と現在のかたちに。さらに同店でノウハウを学んだ堅野さんが、市内で別の子ども食堂を運営中。
★この記事は、商店街活性化の情報誌「EGAO」の2022 Spring(春号)に掲載されています。
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