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活性化事例

地域の魅力発信の“場”をつくり、守るために未来を紡ぐコンテナ型商店街

個店活性

商店街名 フルサット/新潟県上越市

地域に押し寄せる大規模開発の波。それに対して、商店街は何ができるのだろうか? その答えのヒントが、新潟県上越市にある。地域のためにできることを、と民間事業者がゼロから立ち上げた新しいかたちの商店街 「フルサット」の取組みとは。

地域の力を結集した新発想の商店街

雄大な山々に囲まれた北陸新幹線・上越妙高駅。その駅前で、今脚光を浴びているのがコンテナ型商店街「フルサット」だ。扇状に並ぶ真っ白なコンテナの中に入ると、飲食店や物販店が並び、店員たちとコミュニケーションを取りながら老若男女が舌鼓を打っている。子どもたちは遊具で遊び笑顔を見せている。その温かい雰囲気は、かたちこそ新しいが商店街そのものだ。

「地域の玄関口だからこそ、人や食、モノといった地域資源の魅力を発信する場、いわば〝地域のショールーム〞が必要だと思ったんです」
そう話すのは、フルサットを運営する株式会社北信越地域資源研究所代表の平原匡さんだ。 上越妙高駅は、北陸新幹線の開通に合わせ、2015年に旧・脇野田駅が移設・改称され運用がはじまった。周辺はもともと商店街もない、閑散とした地域。だが、新しい新幹線用駅舎の誕生という大きな出来事にもかかわらず、駅前の開発計画はなかなか進まなかったという。

「このままではビジョンがないまま、地域外の資本だけで運営されかねない。やがて駅前が発展した際に、地域の人の出店を受け入れる場所が必要でした」同地出身の平原さんは、危機感を持って立ち上がる。そこで直感的に頭に浮かんだのがコンテナ型商店街だ。
「コスト面や拡張性、イメージ の統一感といったメリットもあるのですが、なにより地域のコンテンツがずらりと並ぶショールームのイメージがもともとのコンセプトと合致しました」

平原さんと妻の留美さん(同社取締役)。フルサットの立ち上げ、運営、出店サポートまで二人三脚で奮闘

早速駅前の土地の所有者に掛け合って構想を伝えると、共感が得られて、借りられることに。パートナーである建築家の中野一敏さんと、雪国ならではの「雁木」を活用したデザインを練り上げる傍ら、地域で出店者を募ると、独立開業を志していた人たちが手を挙げ、 2016 年6月、4 店舗でフルサットは始動した。「メディアにも取り上げていただき、地域内外から少しずつお客さんがいらっしゃるようになった。そんな様子を見て、自分たちも出店したいという声を多くいただくようになりました」

コンテナは出店のイメージがしやすく、敷地内での拡張も可能。そんな強みを存分に活かし、いまでは業種もさまざまな 9 事業者が入居する。もちろん、すべて上越市にゆかりある事業者だ。

何もなかった駅前で活況をみせるフルサットに、周囲の目も変化 していった。「当初、地元小学校では児童に『フルサットに行かないように』という注意が出ていたんです。買い食いや見知らぬ人との出会いを警戒したんでしょう。それで、『私たちはしっかり子どもたちを見ているし、何かあれば注意もする。商店街は教育の場にもなります』と申し入れました」

その結果、小学校はフルサットを視察することで、ポジティブな目に転換。いまでは総合学習で児童たちが訪れレポートするなど、教育現場として機能している。また、「おいしい旅のはじまり」というフルサットのキャッチフレーズに呼応するように、地域の食資源のPRイベ ントにも活用されている。こう した公共的役割を担うにつれ、 出店者にも変化が生まれている。「自店だけでなくフルサットを、そして街をどう変革していくかという意識になってきています。実際、周辺には少しずつ新しい施設が誕生しており、インバウンド客も増えているなど、北陸観光の拠点として街の可能性は大きい。みなさんの得意分野を活かして、一緒にこの地域を盛り上げていきたい。それこそ、地元の人々が集う場所だからできることです」

事業者、住民、そして観光客。それらが密度濃くつながる場は、一朝一夕で生まれるものではない。だからこそ、今後街がさらに発展したとき、その中心にフルサットがあることは、地域にとって大きな財産になるはずだ。それは街の強力な磁場となり、やがて地域を支えるプラットフォームへと進化する。ゼロから生まれたコンテナ街に、商店街の本質が秘められている。

★この記事は、商店街活性化の情報誌「EGAO」の2019 Spring(春号)に掲載されています。
「EGAO」をご覧になりたい方はこちらへ。

商店街活性化の情報誌「EGAO」

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