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全国各地の商店街活性化の事例から、「商店街活性化のヒント」になるノウハウをご紹介します! 商店街支援ノウハウ

空き店舗(ビル)活用で創業促進
商店街の新たな魅力づくりのポイント空き店舗活用創業促進

「美殿町商店街振興組合(岐阜県岐阜市)」や「米子商店街(鳥取県米子市)」など、商店街にある中小規模の空きビルを改修し、そこに創業者を呼び込みながら、同時にまちの魅力づくりを行っているケースが増えている。ここで、各地の取り組みを紹介しながら、空き店舗(ビル)活用による活性化、商店街の魅力づくりのポイントを解説する。

商店街ならではの「インキュベータースキーム(第三の組織)」を構築

美殿町商店街振興組合「まちでつくるビル」の例

美殿町商店街は、かつて婚礼用品の専門店が並び活況を呈していたが、現在では専門店が姿を消し、空き店舗が目立っている。ただ、家具屋、布団屋、下駄屋、茶道具屋、漬物屋、和菓子屋などの老舗が生き残っていることに着目。「専門職人が集まっていた歴史」を生かした商店街の活性化を試みようと、岐阜市にぎわいまち公社と合同で創業促進チームを結成した。同チームでは「まちでつくるビル企画室」を立ち上げ、拠点を同商店街の中央に位置する太田ビル(通称・まちでつくるビル)とした。

同ビルのオーナーである美殿町商店街振興組合の鷲見浩一代表理事は、以前からこの空きビルを、創業を志す人の拠点にする構想を抱いていたが、テナント募集のノウハウなどが不足していた。「まちでつくるビル企画室」に相談したところ、岐阜市にぎわいまち公社の大前貴裕さんが、テナント募集や受け入れ体制の構築に、全国商店街支援センターの「商店街の創業促進事業」を活用することを提案して募集にこぎつけた。

  • 募集期間は2012年12月~2013年1月11日
  • 1月11日から二次募集開始
  • 内装工事は2013年2月
  • 内装工事の期間中、入居予定者と商店街関係者でワークショップ(壁のペンキ塗り)を行う
  • オープンは2013年4月6日(予定)
  • 5階建てのビルの1階(22坪)は飲食店、2階(22坪)は物販店、3階(30坪)は工房・オフィス、4階(30坪)をオフィス・アトリエとして貸す
  • より多くの入居者を募るためにフロアは2組以上で借りる
  • 2組のうち、代表者と賃貸契約を締結する
  • 「ものづくり」にかかわりのある人に入居してもらう
  • 入居希望者はプレゼンテーションを行い、岐阜市にぎわいまち公社が審査にあたる
  • 共用スペースの維持管理費は共同負担とする
  • インターネットなどの設備は希望があれば追加装備する
  • 駐車場は入居者が確保する

「ものづくりの拠点」としてのコンセプトを損なうことなく、募集にこぎつけられたのは、オーナーと創業希望者の間に、大前さんらの「まちでつくるビル企画室」が「インキュベーター・スキーム(第三の組織)」として入り、上記のようなきめ細かい方針を打ち出したことが大きい。大前さんも仲介役、ショップディレクターとして派遣され、新たな店舗・新たな商店街の仲間を「生み出す」ために地元の商店主とも話し合いを重ねた。こうして入念に作業したことが、新たな風を商店街に吹き込むことにつながっている。実際、新たな入居者が企画して、商店街で定期的にマーケットを開催する計画も進行しているという。

太田ビル(通称・まちでつくるビル)

岐阜市にぎわいまち公社 大前貴裕さん

インキュベーターとは「孵化器」のことである。卵をかえらせるように、新たにビジネスを起業する人をハード・ソフトの両面から支援してリスクを軽減し、事業を軌道に乗せることをいう。ハード面はもちろんだが、さらに重要なのはソフト面だという。

    ■ハード面の支援(主要なもの)
  • 入居スペースの提供
  • 情報インフラの提供
  • 談話室など共用スペースの確保
  • 郊外型施設の場合は駐車場を整備する 等
■ソフト面
  • インキュベーション・マネージャーがアドバイスや相談、問題解決にあたる
  • 行政そのほかの情報を提供する
  • 公的資金など最適な資金調達方法を調査し、申請に関するアドバイスを行う
  • 顧客・販路開拓に役立つ人や組織を紹介する
  • 産官学の連携先を紹介する
  • 経理処理などの事務補助員を紹介する
  • 人材を確保する
  • 入居者の卒業後、地元への定着や将来有望な移転先を紹介するほか、創業後もできるだけフォローする

インキュベーションの歴史の長いアメリカに比べて、日本はまだまだ発展段階にあるので、上記のような項目をすべて行えるわけではない。しかし、共用スペースを持ち、情報機器の追加装備や、駐車場の確保にふれるなど「まちでつくるビル」がハード面で、本格的インキュベーションをかなり意識していることがうかがえる。今後、ソフト面を充実させていくことで可能性はさらに広がると思われる。

格安のテナント料と入居者の多様性が生む創業

柳ケ瀬商店街内「やながせ倉庫」の例

柳ケ瀬商店街は、岐阜県下第一の繁華街・歓楽街として名を馳せていたが、現在は往年の勢いを失っている。そんな商店街で、上田哲司さんが祖父から相続したビルでは、ラーメン屋やスナックなど従来のテナントが相次いで撤退していった。上田さんは、維持費ばかりがかかるので活用法を模索していたが、何らかのコンセプトを持って活用したいと考えていた。そこで持ち込まれたのが、名古屋クリエイターズマーケットを主催する相羽氏の「クリエイターが集まるテナントビル」というコンセプトだった。

コンセプトをもとに誕生した「やながせ倉庫」では、テナント料を格安に設定したことで若いクリエイターが集まってきた。初期費用を抑えるために、ペンキ塗りなどの改装・改修は入居者が共同で行い、上田さんも参加した。共同作業を通じて一体感が高まる中で、上田さんはクリエイターたちの可能性を引き出すことに興味を持ち、近くの八幡神社で「小さなクラフト展」という手作り展も開催して創業機会の創出に努めている。

やながせ倉庫

やながせ倉庫のオーナー 上田哲司さん

やながせ倉庫には、さまざまな地域からの入居者が集まっている。プロばかりでなくアートを副業とする人も多い。こうした多様性を上田さんは「ゆるさ」と表現し、それが「やながせ倉庫の強みになっている」と言う。お互いに教える、教えられる、発想する、発想を引き出す。どこか学校のような雰囲気を持つやながせ倉庫から「卒業」した人もいる。

やながせ倉庫で起業し、柳ケ瀬商店街に「アラスカ文具」という店を構えた今尾真也さんや横山七絵さんらは 「やながせ倉庫はテナント料が安いし、人も温かくて居心地が良かったのですが、創業したい人はまだたくさんいるので、いつか巣立たねばならないと思いました」と語った。

やながせ倉庫出身のアラスカ文具とオーナーの1人・横山七絵さん

この事例のポイントをまとめると下記のようになる。

  • 空きビルのテナント料を格安に設定したことで、若いクリエイターが集まりやすくなった
  • 費用を抑えるための共同作業がコミュニティ構築に一役買った
  • 出身地域やプロ・アマを問わない「多様性」を容認した、学校のようなコミュニティにおいて、新たな発想、創業の土壌が培われた
  • やながせ倉庫出身で地元商店街に定着する店舗が生まれ、商店街全体に活気が伝わった

活気は、地元だけで生むものではない。空きビルを拠点とし、新しく募った入居者たちによって生まれたコミュニティから、既存のコミュニティ(商店街)に移り定着する。空きビルのオーナーが入居者に触発されて、既存のコミュニティ拠点である神社境内で、手づくり市という新たな試みを起こす。このようなプロセスであっても、活気は生まれるのだということを「やながせ倉庫」は教えてくれる。

現在の入居者は、作家と会えるショップ「LINEFOLT SEE & HELLO!」、古着を扱う「オルガン洋品店」、オーダーメードシューズの「entada」、ミニチュアカーやアンティック、70年代の英国のレコードなどを扱う「あれやこれ屋」、オリジナルぬいぐるみや、布小物などを扱うアトリエ兼ショップの「アトリエ トコロテン」など、実にユニークでオシャレな店舗が多い。2号館、3号館と増殖中で、新しいショップもオープンしている。

空きビルを商いの拠点にする空き店舗再利用で人を増やす

米子市中心市街地の商店街「SKY米子」「善五郎蔵」の例

交通の要衝として「山陰の大阪」と呼ばれる鳥取県米子市。米子駅前商店街は「戸板市」・「元旦夜明け市」などが開催され、多くの人で賑わってきた。しかし、郊外への大型店舗進出と、少子高齢化という社会的な要因があいまって、1997年に5万人を超えていた歩行者通行量は、10年で1万人に落ち込み、売上高は半額に陥った。2009年時点で空き店舗率は35%で、後継者不足にも悩まされている。

そこで、意欲のある商店主を募って「まちづくり会社」を設立。商店街の空きビルに若者向けテナントを収めた「株式会社SKY米子」を設立した。核となる複合商業施設を拠点にして創業者を募り、空き店舗率を改善していくのが狙いである。

SKY米子は、1階から2階までがアート雑貨、ファッション、ヘア&メーク、3階がアパレル、ガーデン設計・施工、ホームページ制作の店舗で構成されている。4階はイベントや個展などを開催するスペース「スカイスクール」と、図書コーナーを備え、無料で利用できるスペース「スカイ公園」となっている。

ユニークな複合商業施設の設立を支えたのが、タウンマネージャーの杉谷第士郎さんである。杉谷さんは、その運営において下記のような方針で動いた。

SKY米子

タウンマネージャーの杉谷第士郎さん

  • 空き店舗のテナントミックス活用には、経営のプロが入ってオーナー、テナントともに収益を上げることが欠かせないため、SKY米子では古着屋を12年営んだ人物をオーナーとする
  • 内装費や修繕費など初期費用のうち3分の2を国の補助で賄い、残りをオーナーが負担する
  • 株式会社を立ち上げる際の書類作成から交渉、テナントの選定は杉谷さんが行う

会社が動き出すまでの資金・手続き・交渉をタウンマネージャーである杉谷さんが担ったことで、SKY米子は順調なスタートを切ったと言える。

「善五郎蔵」の成功もその手腕によるところが大きい。この店舗は、築120年の蔵をリノベーションした複合商業施設である。1階には、しゃぶしゃぶとすき焼きの店「和顔」が入る。飲食サービスの経営実績のあるプロをテナントとすることで、ビル全体の経営安定化を図ったものである。一方、別棟には山陰のクリエイターの作品展やワークショップを開催できるスペースを設けて、相乗効果で「人が集まる施設」とした。杉谷さんは「経営感覚のある商店主が増えることが商店街、ひいては地方の活性化につながる」と自らの仕事である「人づくり」の側面を語った。

杉谷さんは「人の集まる施設」という発想を行政に伝えて連携し、商店街の空き店舗や空き住宅を再利用して、介護福祉施設や高齢者専用住宅をオープンさせた。「商いの拠点を作る」だけでなく「人を増やすこと」が重要だという。介護を要する人や高齢者、それらの人を支える医療・看護・介護関係者まで含めて、来街者の増加、居住者の増加を図ることが必要だとしている。

 

杉谷さんの考え方に従えば、商店街という従来のビジネスモデルを唯一無二のものとするのではなく、商店街の中に「創業者をインキュベートする複合型商業施設を建設する」という、ビジネスモデルを設定することも有効な方法である。複合型商業施設を「卒業」したユニークな個店が、商店街に加わって業種構成を豊かにし来街者を増やす。さらに、複合型商業施設を核としてまちづくりを実施し地域の発展につなげる…。このように、商店街自体が「創業促進機能を持つ有機体」となることはじつに有益だと思われる。

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